氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「それで? オレは? なんですの?」
「そそそそそれでオレは、オレはだな…………すっすみませんでしたぁっ」

 見事なスライディング土下座をアベル王子は披露してくれた。これも教育の賜物だ。

「あら? 何がすみませんなのかしら?」

 すんとした表情で言い放つと、アベル王子は床に頭を擦り付けんばかりに平伏してくる。
 ひれ伏す夫に気づかれない程度の笑みが、この口元から思わず漏れた。こんな毎日も愛おしく感じる。


 乙女ゲームに翻弄され今日まで必死に生きてきたけれど。

 アンネマリー、あなたがしあわせでいてくれるから、わたしはゲームの世界と現実を、切り離すことができた。

 わたしを取り巻くこの環境は陰謀渦巻く危険を孕んだものだけれど、イケボの愛する夫もいる。守るべき新たな命もここに宿っている。
 今度は何を目標に生きていこう。でもそのためにはまずわたしがしあわせにならなくちゃ。


 わたしの名はテレーズ・ド・アランシーヌ。

 歩んできたこの数奇な人生も悪いものじゃなかった。そう言って旅立つ日まで、わたしはあがき続けるのだ。
 母様のいるところに、胸を張って行けるように。

 でもそれはまだまだ先の話。
 それまでは思うように生きていこう。決して後悔などしないように。母様が残してくれた、あの言葉をこの胸に抱いて。



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