氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 真正面(ましょうめん)からカイと視線をぶつけあって、ハインリヒは はっと我に返った。そして、苦しそうに顔をゆがませると、そのまま瞳を閉じて先ほどと同じようにどさりと椅子に腰かけた。
 背もたれに背中を預け大きく息を吐いた後、ハインリヒは上向いて目を閉じたまま小さな声で言った。

「……すまない……少し、感情的になりすぎた……」
「いえ、オレも出過ぎたことを申し上げました」

 カイは一度(ひとみ)()せてから、すぐに顔を上げた。その顔は、普段の明るい表情にもどっている。

「ハインリヒ様、オレ、そろそろ元のお役目に戻らせてもらいます。約束より少し早いですけど、白の夜会まではハインリヒ様の大きな公務はないですし、ジークヴァルト様もリーゼロッテ嬢にかかりきりでなくてよくなったようですから」
「……ああ、フーゲンベルク家に行ってきたんだったな」
「はい。すごくおもしろいことになってますよ、リーゼロッテ嬢」

 冗談めかして言うカイは、もう普段通りだ。ハインリヒは冷静さを取り戻すように、もう一度大きく息を吐いた。

「まともな報告書を書いてよこせよ」
「ええ、もちろんです。今までの調書の中で、いちばんの最高傑作(けっさく)に仕上げてみせますよ」

 悪びれた様子もないカイに、ハインリヒは暗くなる自身の気持ちを(いまし)めた。

(思いあがるな……苦しいのは自分ひとりだけではない……)

 王族として、受けた託宣は果たすべきだ。この国の未来の王として、それは義務であり、国民に対して負うべき責務(せきむ)だ。そう教えられて今日までやってきた。そして自分は、これからもそうであらねばならない。

「カイ……長い間、拘束して悪かった」
「いえ、久々に王城でゆっくりと過ごすこともできましたので。今までの再確認も含めて、いろいろと有益(ゆうえき)な情報も集まりましたし」

「ああそうだ、最後に手土産を持って行け。……神殿から許可が下りた。かなり渋っていたが、神官同伴でなら半日限定で、書庫(しょこ)(かぎ)を開けるそうだ」
「同伴というか、監視ですよね。……まあ、滅多には入れるとこじゃないんで、この機会はありがたく活用させてもらいます」
「何か不都合があったら言ってくれ。神殿の圧に負けないくらいの立場ではいるつもりだ」
「そのときは全力で頼りにしてますよ」

 カイのウィンクにハインリヒは小さく笑いを返した。カイのあっけらかんとしたこの態度には、いつだって自分は救われてきた。例えそれが、カイの作り出す(いつわ)りの姿だったとしても。

「ハインリヒ様。オレ、必ずハインリヒ様の託宣の相手を探し出して見せますから」
「……ああ、すまない……」

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