氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 カイが出ていき広い執務室にひとり残されたハインリヒは、目の前の小箱に視線を落とした。長い時間それを見つめ続けていたが、思い切ったように中から亡(な)き母(はは)の懐中時計を取り出した。

 手に取った時計の蓋(ふた)をかちりと開くと、ふわりとアンネマリーの気配(けはい)が漂(ただよ)った。しかしそれは刹那(せつな)のことで、かすかな気配は一瞬でかき消える。

 蓋の内側にはめ込まれた守り石の紫(むらさき)が、涙のように揺らめいている。それは彼女のものか、自分のものか……。

 ハインリヒはすべてを断(た)ち切(き)るように、乱暴にその蓋(ふた)を片手で閉めた。

 懐中時計を箱に戻すと、ハインリヒはアンネマリーの手紙と共に、鍵(かぎ)付(つ)きの引き出しの中へとしまった。引き出しを静かに押し込み、鍵穴(かぎあな)に鍵(かぎ)を真っ直ぐと差し込んでいく。

(――二度とここを開けることはない)

 回した鍵(かぎ)の乾(かわ)いた音が、部屋の中に冷たく響(ひび)いた。
 彼女への切ない思いも、美しい思い出も、何もかもこの引き出しに閉じ込めて、すべて凍(こお)ってしまえばいい――

 それは恒久(こうきゅう)の封印のようであり、溶けることない永遠の誓いのようでもあった。

 ハインリヒは祈るように、静かにその紫色の瞳を閉じた。





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