氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 そんなことを思いながらリーゼロッテは、ソファに腰かけたままぼんやりとサロンの大きな一枚ガラスの外を(なが)めていた。

 気づかないうちに、またため息が口から()れていたのだろう。近くにいた小鬼と称される小さな異形が、心配そうにリーゼロッテを下からのぞき込んでいた。

「あら、あなた……」

 異形たちは基本的に、リーゼロッテには近づいてはこない。ただ遠巻きにこちらを気にしていて、リーゼロッテがそんな異形に視線を向けると、隠れるか動きを止めるか、みなそんな反応をみせる。

 そんな様子が『だるまさんが転んだ』のようなので、リーゼロッテは最近ではなんとなく微笑ましく思っていたのだ。人間、慣れとは怖いもので、王城で異形にビビりまくっていた頃が懐かしくすら感じてしまう。

 そんな中、リーゼロッテの足元まで来ていた異形は、ドロドロのデロデロだったが、どことなく愛嬌(あいきょう)があるように思えた。

「わたくしを心配してくれているの? やさしい子ね」

 そう言ってリーゼロッテは小さな異形に微笑みかけた。リーゼロッテのわずかな動きでも、その体からふんわりと緑の力があふれだしていく。
(異形の浄化はヴァルト様に禁止されてるけど……話しかけるくらいならオッケーよね)

 小鬼は小さな手と思しきものを、リーゼロッテから(あふ)れ出た力に一生懸命伸ばしている。ジークヴァルトの守り石があるからだろう。近寄れるギリギリのところで必死になっているようだ。

「これが欲しいの?」

 リーゼロッテはそっと手のひらを開いて、何かを()く仕草をした。手のひらから(あふ)れ出た緑の力がふんわりと広がっていく。
 うれしそうにピョンピョンと飛び跳ねて、小鬼は緑の力を身に受けた。とたんにドロデロの体が、きゅるんとしたおめめの小さなブサ可愛い何かに(さま)()わりする。
 力を込めて、放ったのではない。ただ、そっと手を動かしただけだ。

(こ、これは浄化したわけではないわよね……)

< 84 / 684 >

この作品をシェア

pagetop