氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 お腹も減っていないし、力を使い果たした感覚もない。これは完全にセーフのはずだ。リーゼロッテは冷や汗をかきながら、ひとり納得しようとした。

「え?」

 ふと目の前を見やると、いつの間にかそこら辺に隠れていた小鬼たちが、リーゼロッテの座るソファの前で列をなしていた。姿かたちは様々だが、一様(いちよう)にみな小さく弱いドロデロした異形の者たちだ。

(えっと……これはもしかしなくても、順番待ちをされているのかしら……?)

 最前列のドロデロが、催促(さいそく)するようにぴょんぴょんと()ねている。
 リーゼロッテは()われるまま、そっと手のひらを差し出した。ふわっと緑が降り注いでいく。それを受けた小鬼は、やはり可愛らしく変化(へんげ)して、うれしそうに列を離れた。

 次の異形が、リーゼロッテをじっと見つめてくる。

(……もしかしてエンドレス?)
 リーゼロッテはこてんと首をかたむけた。

(よろこんでもらえてるみたいだし……まあ、いいか)

 別に力をふるっているわけではないと、アイドルの握手会さながらリーゼロッテは小さな白い手を右に左に振りまき続けた。

「ふふ、あなたは綺麗な瞳の色ね。まあ、あなたの髪の色も素敵よ……」
「ふおっ! 何をされているのですか、リーゼロッテ様!?」
「あら、マテアス。どうしたの? そんなに慌てて」

 差し伸べた手のひらをそのままに、リーゼロッテはサロンの入口の方を振り返った。息を切らしたマテアスが、青い顔をしてサロンへと入ってくる。入口では数人の使用人たちが、心配そうな顔をのぞかせてこちらの様子を伺っていた。

(これは……通報されたっぽいわね……)

 恐らくリーゼロッテの奇行を目撃した使用人が、マテアスに報告をしたのだろう。途中から楽しくなってしまったリーゼロッテは、夢中で異形たちに力を振りまいていた。

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