氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「今がビョウの(しゅん)でございますからね。リーゼロッテ様にはご健康でいていただきたいと、料理長が腕によりをかけて作りました」
「いちビョウあれば怪我知らず……というやつね。ふふ、料理長にお礼を言わなくてはならないわ」
「そのお言葉だけで、料理長も感激すると思います」

 そんなたわいもない会話でも、リーゼロッテにはうれしく感じる。
 ダーミッシュ領にいた頃は、異形のせいでひとりさびしく食事を済ませていた。最近になってようやく家族と食卓を囲めるようになったのだ。

 だが、公爵家では基本部屋で、ひとりきりで食べるのがほとんどだった。忙しいジークヴァルトと食事を共にしたことは一度もない。

「本日の王太子殿下の公務が終われば、しばらくは旦那様も王城へ出仕することはなくなります。先日、旦那様にお話があるとおっしゃっていましたでしょう? 明日にでもリーゼロッテ様のためにお時間がたっぷりとれますので、楽しみになさってくださいね」

 マテアスにそう言われ、リーゼロッテはそうだった! というような顔をした。

「あの、マテアス……その件なのだけれど、今日、カイ様にお会いできたので、ジークヴァルト様にお話するのはもうよくなったの」

「「「「「えっ!?」」」」」

「えっ?」

 自分の言葉に大仰(おおぎょう)に驚かれたことにも驚いたのだが、驚きの声が明らかにマテアスではない方向からも上がったので、リーゼロッテはきょろきょろとあたりを見回した。

 サロンの入口から、先ほどの使用人たちがのぞき込んでいる。リーゼロッテが振り向くと、慌てたようにある者は荷物を運びだし、ある者は窓を()き、ある者はそこら辺にあった(つぼ)(みが)きはじめる。なんともわざとらしい、わたしたち仕事してますよアピールだ。

「リーゼロッテ様……それは一体どういう……」
 マテアスは困惑を通り越して、絶望したような顔つきになっている。

「……先ほどリーゼロッテ様は、デルプフェルト様と随分と親しそうなご様子でしたね」
「ええ、カイ様には王城に滞在していた時に、とてもよくしていただいたわ。わたくしね、カイ様の()れてくださる紅茶が大好きなの」

< 90 / 684 >

この作品をシェア

pagetop