氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテがもうこれ以上はないと少々投げやりに言うと、マテアスがいきなり片膝をついて目頭をぐっと押さえた。

「申し訳ございません……主が多忙なばかりに、あなた様に寂しい思いばかりを強いてしまって……」
「え? いえ、そんな大げさな……」
「いいえ! こんなささやかな可愛らしいお願い事すら叶えてさしあげられない朴念仁(ぼくねんじん)な主ですが、どうか! どうか、お見捨てにならないでやってください!」

 妙に芝居(しばい)がかった仕草(しぐさ)のマテアスに、リーゼロッテは引き気味になった。入口で様子を伺っていた使用人たちも、ハンカチを目に当てて懇願(こんがん)するようにこちらを見ている。

「ですが、ご安心ください。リーゼロッテ様のそのなんともいじらしい願い。今日にでもこのマテアスが(かな)えてさしあげましょう」

 すっくと立ちあがり、マテアスは恭しく腰を折った。

「え、だからそんな大げさな」
「さあ、聞きましたか? 今夜は旦那様とリーゼロッテ様の初めての晩餐です! みな、気を引き締めて準備に取りかかりますよ!」

 マテアスの号令で使用人たちが我先にと動き出す。

 その日、公爵家は、いったいどんな賓客(ひんきゃく)が来るんだと言うほどの晩餐(ばんさん)の席を、ふたりのためだけに用意したのだった。



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