氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
(あとは粗相(そそう)をしないように気をつけないと)

 リーゼロッテはテーブルマナーはこの世界で学んだ知識しか持ち合わせていない。
 日本での記憶は、お(はし)にスプーン・フォークがせいぜいだ。ナイフとフォークを使うようなフルコースは、それこそ誰かに呼ばれた結婚式くらいのもので、それも周りを観察しつつ恐る恐る食べていた記憶しかない。

 貴族として、幼少期にロッテンマイヤーさんからマナーのスパルタ教育は受けている。しかし、幼い頃にマスターしたきり、長い間披露(ひろう)することなく過ごしてきた。だから、今日のような格式高いディナーの席では少しばかり自信がないのだ。

(ん?)

 しかし、テーブルに置かれたスープにリーゼロッテは首をかしげた。

 今夜はジークヴァルトとの食事の席のはずだが、運ばれたスープが一皿だけだったのだ。しかも、自分の目の前には、普通なら置かれているであろうカトラリーがひとつもない。

 横に座るジークヴァルトの前のテーブルの上を見ると、そこには一式カトラリーがそろえられていた。これは一体どういうことか。
 一瞬、食べるのはジークヴァルトだけなのかと思ったが、そんな非常識なことが由緒正しい公爵家でおこるわけはない。

「あーん」

 不意に隣から悪魔の声が聞こえてきた。恐る恐る横をみやると、目の前でクリーム色の液体がスープスプーンの中で美味しそうに湯気を立てている。
 この状況は、リーゼロッテの想像をはるかに超えて、とんでもなく非常識だったようだ。いいのか、格式高い公爵家がこんなんで。リーゼロッテは涙目で首をふるふると振った。

「あの、さすがにこれは……」

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