さくらびと。 恋 番外編(3)
歓迎会は終了し、蕾は帰るため駅へと歩いていた。
二次会に参加する人と参加しない職員で別れたのだが、蕾は断ることにした。
すでに飲みすぎて頭がぼんやりしていたし、これ以上あの空間に留まるのは難しかった。
駅までの道を一人で歩いていると、冷たい夜風が火照った頬に心地よい。
街灯に照らされた夜道は人影もまばらで静かだった。
酔いのせいか足取りがおぼつかない。それでも何とか駅へと歩を進める。
「(こんなに飲んだの久しぶりかも……)」
駅へ続く細い路地に入ったところで、前方の交差点に見覚えのある姿を見つけた。
有澤先生が若い看護師と並んで歩いていた。
しかも彼女の手が彼の腕に触れている。さくらの胸が締め付けられた。
「(はぁ……こんな場面を見るなんて……)」
酔いとショックで足元がふらつく。
それでも気づかれたくない一心で足早に彼らの後ろを通った。
背中に感じる視線が痛かった。
そして角を曲がったところで立ち止まる。早く駅に着きたいのに、足が動かない。
目頭が熱くなり、視界が滲んできた。
「(どうしてこうなっちゃうんだろう……)」
忘年会の時の先生の言葉を信じて、二年も経っている。
やっぱり単なる私の思い違いだったのか……蕾は有澤先生のことがよくわからなくなっていた。
でも現実は違っていた。
胸に焼けつくこの思いは…やっぱり先生は蕾にとってただの同僚以上の何かだったのかもしれない。