さくらびと。 恋 番外編(3)
そんな雰囲気を醸し出しつつある中、有澤先生の自分の髪型への言及に、蕾は顔を赤らめ思わず素っ気ない態度をとってしまった。
「あ、はい、今日は...」と言いかけた言葉は、喉の奥でつかえてしまった。
本当は、先生の言葉に嬉しくて、もっと笑顔で返したいのに、どうしてこうも素直になれない。
蕾は、自分自身の不器用さに歯がゆさを感じていた。
有澤先生は、そんな蕾の戸惑いを、まるで手に取るように理解しているかのようだった。
彼女の頬が赤らむ様子を、彼は微笑ましそうに見つめている。
その表情には非難の色はなく、むしろ興味深げな視線が向けられているように感じられた。
蕾は、有澤先生の鋭い人間観察眼に、改めて気付かされる。
自分の感情の揺れ動きまで、きっとお見通しなのだろう。そんな不安がよぎり、さらに顔が熱くなった。
このままでは、先生に自分の気持ちがバレてしまうかもしれない。
しかし、有澤先生の眼差しは、どこまでも優しかった。
それは、なんだか慈愛に満ちた眼差しだった。
その優しい視線に触れるたび、蕾は、自分の中にあった壁が少しずつ崩れていくのを感じていた。
有澤先生という存在が、ただの「憧れの人」から、もっと身近な、心に触れる存在へと変わりつつあった。
静かに微笑む有澤先生の横顔を見つめながら、蕾は、この不思議な心地よさに、もっと浸っていたいと願っていた。
まるで、穏やかな春の陽だまりの中にいるような、そんな温かい気持ちだった。