さくらびと。 恋 番外編(3)




他愛もない会話を交わしながら、二人はゆっくりと廊下を歩いた。







病棟の廊下は、いつもと変わらない日常の音に満ちていたが、その空間だけが、まるで二人だけの特別な時間のように感じられた。







蕾は、有澤先生とこうして二人きりで話していることが、心地よくてたまらなかった。








しかし、その心地よさに、次第に自分の抱える感情に戸惑い始めていた。










これは、ただの職場の人としての親しさなのか、それとも......。
 










 ふと、有澤先生の視線が、蕾の髪に向けられた。「桜井さん、」と、彼は切り出した。







「はい?」






有澤先生は、悪戯っぽい笑みを浮かべ、自分のこめかみを指差し顔を少しこちら傾けた。








「今日は、いつもの編み込み、かな?」






「…っ」





 
 その言葉に、蕾の顔が瞬時に熱くなった。








まさか、またそんな不意打ちで言われるなんて。









有澤先生との距離が、ほんの少し縮まったような気がした。










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