さくらびと。 恋 番外編(3)
彼の温かな視線に胸が詰まった。
どうしてこんなにまっすぐ見つめられると何も言えなくなってしまうのだろう。
「先生……」
蕾はようやく口を開いた。
「私の知ってる板垣先生とは違う印象なんですね」
有澤先生は苦笑した。
「人間、一面だけで判断するのは難しいものだよ」
蕾その言葉に反論できなかった。自分だって板垣先生の表面的な態度にばかり囚われて、もっと深い理解を怠っていたのではないだろうか。
ーー板垣先生のせいじゃない。
蕾ちゃんのせいでもない。
私の心が弱かったからなの。ーーー
蕾は、過去の千尋の最後の手紙を思いだしていた。
そして、あの言葉を受け入れられなかった自分がいることに
気付く。
「もちろん完璧な人間なんていない。板垣先生もそれなりに欠点はあるよ。だけどそれ以上に学ぶべきこともあるんだ」
「そうなんですね……」
少しずつ冷静さを取り戻していく。
有澤先生がそこまで言うのなら少しは信じてみようと思った。
彼の選択を尊重することが今の自分にできることなのかもしれないと。
「わかりました」
そう告げる自分の声が予想以上にしっかりしていて少し驚いた。
「私も、精一杯これから看護師として、ひとまず頑張ります。」
「先生のこと、応援してますね。」
「ありがとう、桜井さん」
有澤先生の微笑みを見て、蕾は心の底から安堵した。
板垣先生への懸念が完全に消えたわけではない。
でも今は、この人を信じて前に進つしかない、そう思った。
窓の外を見ると夕焼けが美しい。
明日からはまた新たな一日が始まる。
希望と不安を抱えながらも、蕾は小さな勇気を持って前を向いた。