さくらびと。 恋 番外編(3)

第6章 秋、新病棟。



秋の半ば、いよいよ新病棟への移行が始まった。




それはまさに嵐のような日々だった。





「桜井さん!502号室の患者さんのカルテ急いでコピーして!」





「了解です!あと30分後に701号室の患者さん搬送予定なのでベッドメイキングお願いできますか?」






指示が飛び交うナースステーション。




通常勤務に加え、次々とやってくる荷物整理やファイル移動で看護師たちは体力の限界に挑戦しているような状態だった。






蕾は腕にファイルの山を抱えながら小走りで廊下を進む。





途中、搬送用リフトに乗せられた患者さんとすれ違った。





「申し訳ありません。あと少しで新しいお部屋に着きますから」




介助する看護助手に優しく声をかけると、患者は小さく頷いた。高齢の女性だ。




長い入院生活で衰えた体を揺らしながらも、その眼差しには新しい環境への好奇心が見える。






「桜井さん!ちょっと来て!」






山本さんの叫び声に駆け寄ると、新しい電子カルテシステムの導入トラブルが発生していた。画面が固まり操作不能に陥っている。







「ここをクリックして……うーんダメか。管理者アカウントが必要みたい」






二人が四苦八苦していると、「どうした?」と有澤先生が駆けつけた。








有澤先生の指示で事態は徐々に収束に向かう。







こんな些細な場面でも彼が近くにいるという安心感が心強く思えた。





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