さくらびと。 恋 番外編(3)
時間が来て病棟の人材室に行くと既に行列ができていた。
有澤先生は白衣の袖をまくりながら患者の問診を始めていた。
その横で吉岡さんがテキパキと書類整理をしている。
「桜井さんは隣の診察室でお願いできる?」
有澤先生の柔らかな指示に緊張しながら頷いた。
自分の受け持った患者の接種準備を進めていると、隣から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ。すぐに終わりますから」
その声に思わず顔を上げると、有澤先生が問診票を見ながら、若い患者にワクチンの注射を打つ準備をしていた。
「◯◯さん、左腕出しましょうね。」
蕾は直ぐに患者の体制を整え、打ちやすいように患者の腕を支えた。
彼のシリンジを持つ手際よい動きに目を奪われる。ふとした瞬間、蕾の視線が彼と交差した。