寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 無防備なまま可愛らしい顔を惜しげもなく向けてくるリーゼロッテを前に、いつその糸が切れるのではないかと、マテアスもふたりのそばを離れられないでいる。このくそ忙しい時に散策に付き合っているのもそのためだった。

「ダーミッシュ伯爵の信頼を裏切るような真似だけはなさらないでくださいね」

 くぎを刺すように小声で言う。リーゼロッテの同意があるのなら、止めるような野暮なことはしないつもりだ。だが、純真無垢なリーゼロッテが今のジークヴァルトを受け止められるようには、マテアスには到底思えない。

 そもそもリーゼロッテが男女の営みの知識を持ち合わせているかも怪しいところだ。常識的に考えて、社交会デビューを果たした令嬢は、淑女教育の一環としてそこら辺の知識は学んでいるはずである。しかしダーミッシュ夫妻がそこのところをどうしているのか、マテアスは判断がつけられないでいた。

(エラ様に聞いて確かめたいところですが……)

 だがそんな問いかけは、「我が(あるじ)がお宅のお嬢様に手を出したくて出したくて仕方ないんです」と告白するようなものだろう。
 あのエラの事だ。そんなことを聞いたら、ジークヴァルトをリーゼロッテに近づけさせないように必死になるに決まっている。

「リーゼロッテ様のおそばにいたいのなら、とにかくきっちりご自制してくださいよ」

 屋敷を破壊されるのも、正直、勘弁してほしい。ジークヴァルトが取れるのは、何が何でも我慢を貫いてそのそばにいるか、リーゼロッテと心を通わせて彼女を自室に連れ込むか。この二択だけだ。

 ジークヴァルトの自室なら、異形の邪魔が入ることはない。ジークヴァルトの守りが厚く施されたその場所なら、いくらでもイチャこらしてもらって構わない。

 だがそれは、リーゼロッテの心を得てからだ。婚姻が果たされたのならともかくとして、今の段階で無理やり襲って心と体に傷を負わせようものなら、一生涯、悔恨が残ることだろう。

 マテアスの心とシンクロするように雪がちらついてきた。急に陰った空を見上げて、三人は急ぎ散策を終わらせた。

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