寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「国の北西に塩湖(えんこ)があるのですよ。国中の塩はそこで賄われております」
「それで、この国は鎖国していても大丈夫なのね。塩がなければ人は生きていけないもの」

 なるほどといったふうにリーゼロッテは頷いている。先ほど被った雪のきらめきを体に纏い、その長いまつげの先には小さく雪の結晶が形取られていた。雪の妖精のような幻想的なその姿と、言動のギャップが激しすぎだ。

 その時、くしっとリーゼロッテが小さなくしゃみをした。間髪置かずにジークヴァルトが、脱いだ自らの外套をその体にかぶせて巻き付けていく。

「これではヴァルト様がお寒いですわ」
 ミノムシの様に巻かれたその隙間から、リーゼロッテの声が漏れて出る。

「問題ない」

 そう言ってジークヴァルトは、小さい体を抱き上げようとした。手を伸ばしながらかがみこんだその時に、隙間からリーゼロッテが顔をひょっこりとのぞかせた。真正面でリーゼロッテの大きな瞳と見つめ合ったジークヴァルトは、次の瞬間、うずたかく積もった雪へと向かって一目散にバックした。

「ヴぁ、ヴァルト様……?」

 人型を作ったまま雪の壁にうずもれるジークヴァルトを見やって、困惑気味に声がかけられる。

「大丈夫だ、問題ない」

 動揺を隠して答える主を呆れたように見やりながらも、マテアスはその腕を引いて雪の中から埋もれたジークヴァルトを引っ張り出した。

「旦那様、こんな場所で公爵家の呪いを発動させないでくださいよ」
「……分かっている」

 今ここで異形が騒ぎ出したら、雪崩のひとつも起きかねない。リーゼロッテのそばを離れたくないジークヴァルトの理性は、もはや限界まで引き絞られた細い細い糸のようだ。

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