寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「リーゼロッテ様、大丈夫でございますか?」

 慌ててマテアスが駆け寄ると、リーゼロッテは赤い顔のままマテアスの顔をじっと見上げてくる。緑の大きな瞳にまじまじと見つめられて、マテアスは一瞬たじろいだ。

「マテアス、マテアスぅ。ねぇ、どうしてマテアスの目はそんなに糸目なの?」

 エマニュエルの胸を離れ、いきなりリーゼロッテがしがみついてきた。襟元を掴んで引っ張りながら、ぐいぐいと押してマテアスをソファの上へと座らせた。その膝に乗り上げるように、リーゼロッテがさらに顔を近づけながら迫ってくる。

「りりりリーゼロッテ様!?」

 こんな場面を(あるじ)に見られでもしたら、この命が危うくなりそうだ。慌てて押し戻そうとするも、思いのほか強い力でリーゼロッテはマテアスの顔にその手を伸ばしてきた。

「ね、マテアス? その目で本当に見えているの? ちゃんと開いてみて? ね? ほら、はやくぅ」

 そう言いながら、小さな指でぐいぐいと糸目の(まぶた)を押し開こうとする。

「わたしのこの目はすでに全開です! 十分視界は保たれておりますので、これ以上はどうかご勘弁を……!」

 早くしないとジークヴァルトが戻って来てしまう。必死にリーゼロッテを引きはがそうとしていたマテアスの糸目に、部屋の途中で呆然と(たたず)む主の姿が映った。

(……終わった)

 さあっと血の気が引いたのは、主の殺気が尋常ではなかったせいだ。どう見ても、ソファの上で押し倒されているのは、この自分の方だ。だが被害者はこちらだと訴えた所で、聞き入れることなど今の主にはできないだろう。

「ヴァルト様?」

 のしかかっていたリーゼロッテが不意に顔を上げた。ジークヴァルトの姿を認めると、マテアスを放りだしてそちらへと一目散に向かっていく。

「ヴァルトさま、ヴァルトさまぁ」

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