寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 はい、とそっけなく返事をしたエーミールに、儚げな笑みを向けたあと、エルヴィンは弟の顔をじっと見つめた。

「またお婆様に何か言われたのかい?」
「いえ、いつものことですので」

 エーミールは先ほどから言葉少なだ。口をはさむことができる訳もなく、エラは弾まない会話をただじっと見守っていた。

「こんな体のわたしではなく、エーミールにこの家を継がせてあげられたらよかったのに」
「いえ、それは! 長兄である兄上が、この家を継ぐのは当然のことです」
「お婆様も変なところにこだわりを持っているからね」

 肩を軽くすくめてエルヴィンは苦笑いをした。家は長男が継ぐもの。そうは言うものの、病弱なエルヴィンは基本、一日中横になって過ごしている。

「まあ、おかげで変な縁談は断りやすいけど。今のところ、お婆様の都合のいい相手はいないようだから助かってるよ」

 その時、エルヴィンが激しく(せき)込んだ。使用人がさっと現れ、何か薬を手渡し、エルヴィンはそれを水でのみくだした。

「失礼……調子に乗って少しはしゃぎすぎたようだ。すまないけど、わたしはこれで失礼するよ。ふたりはゆっくりお茶を楽しんで」

 ぐったりした様子でエルヴィンは、使用人に車椅子を押されてサンルームを出ていった。エーミールは紅茶に口もつけずに、黙ったままガラス戸の外を見やっている。

「戻ろう」
 それだけ言ってエーミールは立ち上がった。エラも黙ってその背を追っていく。

 寒々としたエントランスを出ると、春の雨が降り始めていた。

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