寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 貴族とは見栄(みえ)(かたまり)だ。矜持(きょうじ)と言えば聞こえはいいが、こういった貴族のしがらみに嫌気がさして、エデラー家は王より賜った爵位を返上しようと決めている。
 様々な手続きもあり、いまだそれは叶っていないが、近いうちにエラは男爵令嬢という立場から、一介の平民になるだろう。

「……エーミール様、帰りましょう」
 その背に静かに言った。今、エラにできることは、たったそれだけだ。

 黙ったまま歩き出したエーミールの背を、少し遅れてついていく。廊下の窓から外を見ると、薄曇りの空が広がっていた。

「エーミール?」

 小さめのサンルームを通り過ぎようとしたとき、声がかけられた。エーミールは足を止め、サンルームで車いすに座っていた男に礼を取った。

「エルヴィン兄上、ご無沙汰しております」

 エラも慌てて礼を取った。エルヴィンはエーミールの兄、グレーデン家の跡取りだ。エーミールに似た顔立ちをしているが、エルヴィンは色白で、線の細い(はかな)げな印象の青年だった。

「本当にしばらくぶりだ。今日はお婆様のお見舞いにでもきたのかな?」
「はい、今顔を出して帰る所です」
「よかったら少し話をしないか? 今日はなんだか体の調子がいいんだ」

 そちらのお嬢さんも、と付け加えてエルヴィンは車いすの向きを変えた。どこからともなく現れた使用人が、さっとティーセットを用意してすぐさま姿を消した。エーミールがソファに座った横に、エラも伏し目がちに静かに腰をかけた。

「エーミールが恋人を連れてくるなんて初めての事だね。わたしにも紹介してくれるかい?」
「恐れながら。わたしはエーミール様とはそういった関係ではございません」

 やさしげに微笑まれ、エラは思わず顔を上げた。

「彼女はエラ・エデラー男爵令嬢、リーゼロッテ様付きの侍女です」
「ああ、妖精姫のお使いかな? わたしも彼女に一度会ってみたいな」
「今はジークヴァルト様が、この家に近づくことを禁止していますので」
「この前はたいへんだったみたいだね。この屋敷に星を堕とす者が現れるなんて」

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