寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「お嬢様、守り石の具合はいかがでしたか?」
「今日はあまりうまくいかなかったの。なんだか集中できなくて」
「昨日こちらに戻られたばかりですからね。疲れがたまっていらっしゃるのかもしれません」

 廊下を進みながら、心配そうにエラはリーゼロッテの顔を覗き込んだ。

「今日一日ゆっくりすればきっと大丈夫よ。エラこそ、刺繍(ししゅう)教室はたいへんではない?」
「いえ、わたしは。最近はヨハン様も来てくださっていますし」
「わたしもたのしくやらせてもらっています!」

 先を歩いていたヨハンが、振り返って満面の笑みで告げてくる。公爵家の廊下は迷路すぎて、案内なしではいまだ歩ける気がしないふたりだ。

「ヨハン様の刺繍は素晴らしくて、わたしも学ぶことが多いです」
「いや、オレもまだまだ修行が足りない」
「いいえ、ヨハン様は本当に刺繍の達人です。このエラ、尊敬しております」
「そ、そんな大袈裟(おおげさ)なっ」

 ヨハンが大きな手をわちゃわちゃとさせる。その(いか)つい顔は、熟れた果実のように真っ赤っかだ。

「ふたりとも、最近仲良しね」
 微笑ましそうにリーゼロッテがふたりをみやる。

「な、な、な、仲良しなどと、その、もしそうならわたしも、うれしいというかなんというか」
「ヨハン様にはよくしていただいております」
 慌てふためくヨハンとは対照的に、エラはいたって冷静だ。

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