寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 廊下の端で一部始終を見ていた使用人たちが、リーゼロッテたちが去ったあと、何やらひそひそと話し始めた。

「最近ヨハン様が、頭ひとつ飛び出してないか?」
「やばいな。オレ、エーミール様になけなしの貯金をはたいちまった」
「わたしはマテアスとヨハン様の二重()けよ。エーミール様は気位がお高いし、男爵令嬢のエラ様を妻に迎えるとは思えないもの」

 エラを落とすのは誰だレースは、フーゲンベルク家で今いちばんの話題の種だ。

「マテアスは次期家令にしても、さすがに貴族から嫁は取れないだろう?」
「何言ってるのよ。ロミルダは侯爵家のご令嬢だったのよ。エッカルトに猛アタックして、妻の座を手に入れたんだから」

 ロミルダはマテアスの母だ。今は公爵家の侍女長をしているが、女性使用人の間では、エッカルトとのロマンスは語り草になっていた。
 令嬢であるロミルダを、家令の立場からはじめは相手にしていなかったエッカルトが、根負けするように次第にほだされていった。ロミルダを妻にするまでの甘い物語が、冊子になって秘かに出回っていたりする。

「オレなんかブラル家のニコラウス様に入れちゃったよ……」
「それ最悪」
「妹君のイザベラ様、マジ最低だったからな」
「そうよ! リーゼロッテ様がおやさしいのをいいことに、お茶会で好き放題言って帰ったそうじゃない。今度来たら、兄妹(きょうだい)ともども塩()いてやる!」

 鼻息荒く言う掃除担当のメイドに、周囲の者はうんうんと頷いた。

 エラを巡った賭け事が、そんなこんなで過熱の一途をたどる公爵家なのであった。

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