寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ふふ、エラとこんな話ができるなんて、わたくし本当にうれしいわ」
 今までのつかえがとれて、心からほっとしている自分がいる。

「ありがとう、エラ」
「はい、お嬢様」

 リーゼロッテの笑顔を受けて、エラもしあわせそうに微笑んだ。

「まあ、見てエラ。庭がサンルームみたいになっているわ。以前のお茶会では、あの辺りに円卓が並べられていたのよ」

 目指す先がガラス張りの温室の様になっている。去年来た時には、外の庭でパラソルの(もと)お茶をたしなんだ。

 その入り口まで行くと、若い女官が円卓へとふたりを導いた。庭のようでいて、温室のような、そんな不思議な空間だ。

「王太子妃殿下は後程(のちほど)いらっしゃいます。もうしばらくこちらでおくつろぎください」

 女官は(こうべ)を垂れて下がっていく。ほかにも別の席へと通された令嬢が何人かいたが、ふたりは中でもいちばん立派な円卓に通されたようだ。
 しばらくすると同じ女官がひとりの令嬢を連れて戻ってきた。

「ヤスミン様!」
「白の夜会ぶりですわね、リーゼロッテ様」

 ヤスミンはキュプカー侯爵令嬢だ。知り合いが同席することに安堵する。貴族の社交など、深窓の令嬢生活を続けてきたリーゼロッテにしてみれば緊張の連続だった。今までは身内のバリケードに守られてきたが、こういった席では自らがうまく立ち回らねばならない。

 今回の茶会の主催者はアンネマリーだが、王太子妃となった彼女が従妹とは言えリーゼロッテばかりを贔屓(ひいき)することなどできはしないだろう。

(エラがいてくれてるけど、男爵令嬢のエラに負担はかけられないわ)

 伯爵令嬢の立場として、ふさわしいふるまいが必要だ。そう思ってリーゼロッテはひとり頷いた。

「わたくし新年を祝う夜会でも、リーゼロッテ様をお見かけしましてよ?」

 (はしばみ)色の瞳を細めていたずらっぽく微笑まれる。ジークヴァルトと共にあれだけ目立つ抱っこ行脚(あんぎゃ)をしたのだ。だが、そのあとの騒ぎと王子とアンネマリーの婚約に、その黒歴史は埋もれていったと安堵していた。それだけにそこを突かれると羞恥で思わず頬が赤くなる。

「うわさ通りに公爵様は、可憐な妖精姫に夢中みたいですわね」

 体のあちこちに飾られた青い石を見やったヤスミンは、その瞳をきらりと光らせた。その口元が音を発さず『独 占 欲 ま る 出 し ね』と動いたように見えたのは、気のせいだと思いたい。

(うう、この格好はそういうのじゃないのに)
 若干涙目になりながらも、抗議できないこの身がもどかしい。

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