寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「リーゼロッテ様はいつお会いしても本当に愛らしいですわね。お部屋に飾って毎日()でていたいくらいですわ」

 公爵様に叱られてしまいますわね、とヤスミンがそう付け加えた時に、新たな令嬢が案内されてきた。その令嬢に向けて、ヤスミンは他人行儀に微笑んだ。

「イザベラ様、お久しぶりですわ」
「ヤスミン様もお変わりなく」

 やってきたのはニコラウスの妹、イザベラ・ブラル伯爵令嬢だった。

「イザベラ様、ごきげんよう」

 リーゼロッテが話しかけるも、イザベラはツンと顔をそらしてそのたれ目でガン無視を決め込んだ。新年を祝う夜会で会った時と同様に、(つや)やかな栗色の縦ロールをびよんと弾ませながら、イザベラは同じ円卓、ヤスミンの隣の席へと腰をかける。

 円卓は主催者席を除いて全部が埋まったようだ。アンネマリーが座るだろう席の両隣は、ヤスミンとリーゼロッテだ。ヤスミンの横にはイザベラが、その隣にエラ、リーゼロッテと並んで円卓を囲んでいた。

「田舎貴族のくせに王太子妃殿下の隣の席を陣取るだなんて。宰相の娘であるわたくしを差し置いて、厚かましすぎるとお思いになりませんこと?」

 この席順が大いに気に入らなかったようだ。聞こえよがしにイザベラはヤスミンに向けてそう言い放った。

「リーゼロッテ様はアンネマリー様の従妹でいらっしゃいますもの。別段おかしくは感じませんわ」

 にっこりと笑ってヤスミンは置かれた紅茶を一口飲んだ。微妙な沈黙が訪れる。

 そんな中、若い女官がイザベラへとティーカップを運んできた。目の前でびよんと跳ねた縦ロールに驚いたのか、その女官は置いたカップを指に引っ掛け紅茶をこぼしてしまった。

「ちょっと、何するのよ! わたくしが火傷(やけど)でもしたらどうしてくれるの!」
「申し訳ございませんっ」

 青い顔のまま震える若い女官をフォローするように、すぐさまほかの女官たちが集まって来る。手際よくこぼれた紅茶を拭き、円卓の上を整えた。

「お父様に言って不敬罪にでもしてもらおうかしら」

 若い女官を睨みながら言うイザベラには、一滴も紅茶はかかっていない。むしろ跳ねた液が、リーゼロッテへと飛んできていた。

「ダーミッシュ伯爵令嬢様、誠に申し訳ございません」

 震えながら膝をついて頭を垂れる女官に向けて、リーゼロッテは静かに微笑んだ。

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