寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「あら? 王太子妃殿下がお越しね」
緊張感のない声で言うと、ヤスミンは静かに立ち上がった。リーゼロッテもそれに倣い、こちらにやって来るアンネマリーへと礼を取った。ほかの円卓にいた令嬢たちも、同じように礼を取る。
「みな、よく来てくれました。今日招いたのはデビュー間もない者だけよ。そう緊張しないで交友を深めてちょうだい」
ここに集まるのは未婚の令嬢たちだ。デビューからせいぜい三年くらいの者を中心に招待されていた。アンネマリーは長い間、隣国で過ごしてきた。今まで希薄だった貴族とのつながりを築いていくのも、王太子妃としての大事な役目だ。
急な婚儀に不満を持つ貴族も少なくない。ここにいるのは社交経験の少ない令嬢たちばかりだったが、家の立場からアンネマリーを敵対視している者もこの場には存在した。おもねる態度を取りながらも、なんとか弱みを握れないものかとあら捜しをしているのだ。
「王太子妃殿下、本日はお招きありがとうございます」
円卓を囲んで、多くの令嬢が挨拶に来る。そのたびにアンネマリーは堂々とした態度で対応をした。同じ円卓に座るのは、リーゼロッテも含め爵位の高い令嬢だ。エラは既知ということもあり、特別扱いと言えた。
権力争いとは無縁の下位の令嬢たちは形ばかりの挨拶を終えると、別の円卓で盛り上がり始めたようだ。子供の頃からの顔見知りなどもいるようで、それぞれが楽しそうに茶菓子をつまんでいる。
そんな中、リーゼロッテはおとなしくアンネマリーの横に座っていた。イザベラの冷たい視線を感じながらも、王太子妃の立場が板についてきたアンネマリーの振る舞いをただ眩しそうに見つめていた。
あの日アンネマリーも招待客のひとりだった。その彼女が王太子妃として王妃の離宮で茶会を開くまでになったのだ。この辺りに置かれた壇上にいた王子は、遥か彼方の人だった。
(あの場でアンネマリーは、やたらと王子殿下を毛嫌いしていたっけ)
そんなふたりは今では夫婦となった。神殿で行われたふたりの婚儀はおとぎ話のように美しく、リーゼロッテは式の間ずっと感動の涙を流し続けた。
「さあ、貴女方も楽しんでちょうだい」
挨拶がひと段落ついたアンネマリーが円卓に声をかける。優雅にほほ笑む姿は、自信に満ちていて近寄りがたく思えるくらいだ。
(アンネマリーは本当に王太子妃になったのね)
なんだか手の届かない存在になったようで一抹のさびしさを感じていると、臆した様子もなくヤスミンが口を開いた。
「おふたりの婚姻の儀は本当にすばらしかったですわ」
「ありがとう、ヤスミン」
「リーゼロッテ様は式の間、ずっと泣いてらしたわね」
そうヤスミンに水を向けられ、リーゼロッテは思わず頬を朱に染めた。子供のようだと自分でも思うが、アンネマリーのしあわせそうなあの場面を思い返せば、今でも号泣できる自信はある。
緊張感のない声で言うと、ヤスミンは静かに立ち上がった。リーゼロッテもそれに倣い、こちらにやって来るアンネマリーへと礼を取った。ほかの円卓にいた令嬢たちも、同じように礼を取る。
「みな、よく来てくれました。今日招いたのはデビュー間もない者だけよ。そう緊張しないで交友を深めてちょうだい」
ここに集まるのは未婚の令嬢たちだ。デビューからせいぜい三年くらいの者を中心に招待されていた。アンネマリーは長い間、隣国で過ごしてきた。今まで希薄だった貴族とのつながりを築いていくのも、王太子妃としての大事な役目だ。
急な婚儀に不満を持つ貴族も少なくない。ここにいるのは社交経験の少ない令嬢たちばかりだったが、家の立場からアンネマリーを敵対視している者もこの場には存在した。おもねる態度を取りながらも、なんとか弱みを握れないものかとあら捜しをしているのだ。
「王太子妃殿下、本日はお招きありがとうございます」
円卓を囲んで、多くの令嬢が挨拶に来る。そのたびにアンネマリーは堂々とした態度で対応をした。同じ円卓に座るのは、リーゼロッテも含め爵位の高い令嬢だ。エラは既知ということもあり、特別扱いと言えた。
権力争いとは無縁の下位の令嬢たちは形ばかりの挨拶を終えると、別の円卓で盛り上がり始めたようだ。子供の頃からの顔見知りなどもいるようで、それぞれが楽しそうに茶菓子をつまんでいる。
そんな中、リーゼロッテはおとなしくアンネマリーの横に座っていた。イザベラの冷たい視線を感じながらも、王太子妃の立場が板についてきたアンネマリーの振る舞いをただ眩しそうに見つめていた。
あの日アンネマリーも招待客のひとりだった。その彼女が王太子妃として王妃の離宮で茶会を開くまでになったのだ。この辺りに置かれた壇上にいた王子は、遥か彼方の人だった。
(あの場でアンネマリーは、やたらと王子殿下を毛嫌いしていたっけ)
そんなふたりは今では夫婦となった。神殿で行われたふたりの婚儀はおとぎ話のように美しく、リーゼロッテは式の間ずっと感動の涙を流し続けた。
「さあ、貴女方も楽しんでちょうだい」
挨拶がひと段落ついたアンネマリーが円卓に声をかける。優雅にほほ笑む姿は、自信に満ちていて近寄りがたく思えるくらいだ。
(アンネマリーは本当に王太子妃になったのね)
なんだか手の届かない存在になったようで一抹のさびしさを感じていると、臆した様子もなくヤスミンが口を開いた。
「おふたりの婚姻の儀は本当にすばらしかったですわ」
「ありがとう、ヤスミン」
「リーゼロッテ様は式の間、ずっと泣いてらしたわね」
そうヤスミンに水を向けられ、リーゼロッテは思わず頬を朱に染めた。子供のようだと自分でも思うが、アンネマリーのしあわせそうなあの場面を思い返せば、今でも号泣できる自信はある。