寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「お恥ずかしい話ですが、わたくし本当に感動してしまって。王太子妃殿下、改めてお慶び申し上げます」

 はにかんだ笑顔を向けると、アンネマリーの口元も小さくほころんだ。

「今日は格式ばった席ではないし、名で呼んでいいわ」
「はい、アンネマリー様」

 さすがに呼び捨てはできなかったが、王族の一員となっても変わらずいてくれる。そんなアンネマリーのことが、リーゼロッテはますます大好きになった。

 そのやり取りをおもしろくなさそうに見ていたイザベラが、何かを言いかけたリーゼロッテを制するように言葉を割り込ませてきた。

「アンネマリー様はずっと隣国で過ごされていたのですわよね。我が国のしきたりなど、お分かりにならないことも多いでしょうから、このわたくしがきちんと教えて差し上げますわ」
「……それは心強いわ、ブラル伯爵令嬢」

 口元に笑みを貼りつかせたまま、アンネマリーは水色の瞳を細めた。爆弾令嬢の言動を、周囲にいる女官たちがハラハラとした様子で見守っている。

「あら、他人行儀に呼ばないでくださいな。アンネマリー様とわたくしの仲ではありませんか。イザベラと呼んでくださって結構ですわ」

 どんな仲だよ。その場にいた者の胸中はおおむねそんなところだ。しかし、アンネマリーは態度を崩すことなく、イザベラに優雅にほほ笑み返した。

「王太子殿下のおなりでございます」

 女官の声掛けと共に、和やかな雰囲気だったお茶会の席が一気に緊張感に包まれた。令嬢たちが一斉に立ち上がり、入ってきたハインリヒに対して礼を取る。
 リーゼロッテたちも同様に礼を取ったまま、頭を下げた姿勢をキープする。アンネマリーは立ち上がってハインリヒを笑顔で迎え入れた。

「アンネマリー」
「ハインリヒ」

 ふたりは互いに愛おしそうに見つめ合い、みなの前でやわらかくハグをした。そのままハインリヒは、アンネマリーの頬に口づけを落とす。遠くで礼を取っていた令嬢たちから、悲鳴のような歓声が上がった。

「楽しんでいるところ邪魔をして悪かったね。少し時間ができたからアンネマリーの顔が見たくなってしまって」
「わたくしもハインリヒの顔が見られてうれしいわ」

 アンネマリーは王子の名を呼び捨てにできる関係になったのだ。ふたりのやり取りを間近で目にしたリーゼロッテは、感慨深く思ってきゅっと唇を噛み締めた。気を緩めると、涙腺が崩壊してしまいそうだ。

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