寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 王子とアンネマリーのファーストダンスを前に、リーゼロッテはその瞳を潤ませていた。ふたりは見つめ合ったまま、ステップの足元すら気にすることなく、息ぴったりに踊っている。
 お互いを(いつく)しみ、信頼し合っているのが伝わってくる。ふたりが結ばれて良かった。改めてそう思うのと同時に、自分があんなふうに踊ることはないのだろうとも思った。

(でも、それはジークヴァルト様だって同じことだもの)

 龍から託宣を賜った自分たちは、それを違えることなどできはしない。託宣を破るということは、イコール星に堕ちるということだ。オクタヴィアや泣き虫ジョンのように、命をかけて運命に逆らうなどできるはずもない。

 ふと向こう側にいたカイと目が合った。騎士服を着ているところを見ると、今日は王子の警護なのかもしれない。

 ハインリヒ王子はアンネマリーと結ばれはしたが、いまだにほかの女性には触れられない状態だ。アンネマリーとの間に、次の王となる託宣を受けた子が授かった時点で、王子の守護者はそちらへと引き継がれる。その時になって初めて、王子はアンネマリー以外の女性との接触に、気を遣わなくてもよくなるのだ。

 カイが自分に手を振ってきた。彼もまた、アンネマリーと王子の恋を見守ってきたひとりだ。急に仲間意識が芽生え、リーゼロッテはカイに向かって輝く笑顔を向けた。

「ふあっ!」

 いきなり横にいたジークヴァルトに腰を引き寄せられた。周囲に異形でもいたのかと辺りをきょろきょろと見回すが、特に何かいる様子もない。

 そうこうしているうちにファーストダンスが終わりを告げる。開放されたダンスフロアに、多くの貴族がなだれ込んだ。

「行くぞ」

 そう言われて、リーゼロッテもダンスフロアに足を踏み入れた。こういった時、爵位の高い貴族が優先される。道を空けられて、フロアの真ん中あたりにたどり着いた。

(わたしなら、どの人が高爵位かなんて、まったく区別がつかないわ)

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