寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 最も、ジークヴァルトは容姿も目立っていて、その存在は誰もが知る所だろう。本来なら人混(ひとご)みに埋もれてしまうはずの自分がこうして優遇されるのも、ジークヴァルトがいてこそだ。

 そんなことを考えているうちに、オーケストラの演奏が始まった。ゆったりしたワルツなので、ジークヴァルトの負担も少なそうだ。

(自分も体重をかけないようにしなくちゃ)

 負傷した肩に負担をかけないようにと細心の注意を払う。しかし周りに異形の者がちらほらいて、ついジークヴァルトにしがみついてしまう。そのたびにダンスをフォローされて、結局は頼りきりになってしまった。

 一曲踊り切って、すぐに二曲目が始まった。これをこなせば任務完了だ。早く曲が終わることを祈りながら、リーゼロッテは懸命にステップを踏んだ。

 リーゼロッテをダンスに誘いたそうな紳士たちを横目に、ふたりはダンスフロアを出て王子たちの元へと挨拶しに行った。これが終わればもう帰っても構わなくなる。ジークヴァルトの体調を考えると、一刻も早く公爵家に戻りたかった。

 壇上前にたどり着くと、ジークヴァルトはやはり優先的に先頭へと通された。ほかの貴族たちも当然とばかりに道を空けていく。

「久しいな、フーゲンベルク公爵。怪我の具合はもういいのか?」
「はい、ご心配をおかけしました」
「かまわない。もうしばらくは養生するといい」

 ジークヴァルトは大事をとって、王城への出仕は控えている状態だ。いまだ癒えきっていない傷を押して、出仕が再開されるのは心配だった。王子の言葉に、リーゼロッテは安堵の息を漏らした。

 後ろに挨拶待ちの貴族が大勢控えているため、アンネマリーとは言葉を交わすこともなく、すぐさまその場を辞した。これで夜会のミッションは終了だ。

「ヴァルト様、もう帰りましょう?」
「疲れたのか?」

 無表情で問うてくるジークヴァルトは、リーゼロッテがまだここに居たいと言うのなら、それに従うような口ぶりだった。

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