寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「はい、今夜はとっても疲れましたわ。公爵家のお屋敷に、わたくし、もう帰りたいです」

 こう言えばジークヴァルトもすぐに帰ると言うだろう。貴族同士の付き合いも大事だが、今はジークヴァルトの体が最優先だ。

「わかった」

 そう言ってジークヴァルトはリーゼロッテを抱え上げようとした。驚いて半歩飛び退き、寸でのところで回避する。

「一体、何をなさるおつもりですか?」
「疲れたと言っただろう? 馬車まで運ぶだけだ」

 何を当たり前のことを。そんなふうにジークヴァルトは事もなげに見下ろしてきた。

「お怪我をなさっているのに、笑えない冗談をおっしゃらないでくださいませ」
「冗談など言っていない」

 再び手を伸ばしてくるジークヴァルトに、リーゼロッテはいい加減にしろと声を荒げようとした。

「お会いしたかったですわ、フーゲンベルク公爵様」

 ふいに可愛らしい声がふたりの間に割り込んだ。その聞き覚えのある声に振り向くと、そこには着飾ったイザベラが立っていた。イザベラは宰相(さいしょう)の娘で、リーゼロッテと同じく伯爵令嬢だ。ジークヴァルトの妻になるべく公爵夫人の座を狙っていて、何かとリーゼロッテに攻撃を仕掛けてくる。

「イザベラ様……」

 いつものようにリーゼロッテの存在をガン無視して、イザベラはジークヴァルトに向けて優雅な礼をとった。

「今日こそは、ダンスのお相手をしていただきますわ。よろしいですわよね、公爵様」

 にっこりと微笑んで、イザベラはジークヴァルトに向けて長手袋をした手を差し伸べた。それを取って当然とばかりに、イザベラは勝ち誇った顔を向ける。

「断る。前にも言ったが、ダーミッシュ嬢以外と踊る気はない」
「なぜ、そのように(かたく)なになるのですか?」

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