寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
理不尽には断固として立ち向かう。そんな勢いでイザベラはジークヴァルトを真正面から睨み上げた。
「いくら王命とはいえ、名を呼ぶつもりもないそんな女に拘る必要が、一体どこにあるというのですか? どう考えても、貴方の妻に最も相応しいのは、宰相の娘であるわたくしイザベラ・ブラルですわ。そうでございましょう? ジークヴァルト様」
「……その名を呼ぶことを許した覚えはない。宰相の娘と言えど二度目はないと思え」
今まで聞いたこともない冷たい声だった。驚いたリーゼロッテは、思わずその顔を見上げる。表情なくイザベラを見つめる瞳は、声音以上に冷たいものだった。
「あ……わたくし、不敬を……」
震える声のイザベラは、青ざめてぼろぼろと涙をこぼした。そんなイザベラを無視して、ジークヴァルトはリーゼロッテを連れて歩き出していた。
何度も振り返り、イザベラの様子を確かめる。だが、ジークヴァルトはお構いなしに、どんどん先へと進んでいってしまう。
「あのようにきつい言い方をなさらなくても……」
気丈なイザベラがあんなにも委縮するほどだ。もしもあの言葉が、自分に向けられたものだったとしたら、リーゼロッテはもうジークヴァルトに、笑顔を向けられないかもしれない。
「いい。あの手合いははっきり言わないと、いつまでもしつこく付きまとう」
ジークヴァルトは公爵だ。その立場から、利用しようと近づいてくる人間も多いのだろう。そうは思っても、先ほどのイザベラの泣き顔がこの目に焼き付いた。
「……女はすぐに泣くから面倒くさい」
密やかなため息と共に漏れ出た言葉を、リーゼロッテの耳は聞き逃さなかった。無意識のような呟きは、無意識だからこそ、ジークヴァルトの本音なのだろう。普段から泣き過ぎている自覚のあるリーゼロッテは、絶句してその口を引き結んだ。
「お前は別だ」
リーゼロッテの様子に気づいたのか、ジークヴァルトはそっけなく言った。おざなりに付け加えられた言葉は、リーゼロッテの心に届くことはなかった。
それ以上会話をすることもなく、宵闇の中、ふたりは馬車に揺られて公爵家へと帰っていった。
「いくら王命とはいえ、名を呼ぶつもりもないそんな女に拘る必要が、一体どこにあるというのですか? どう考えても、貴方の妻に最も相応しいのは、宰相の娘であるわたくしイザベラ・ブラルですわ。そうでございましょう? ジークヴァルト様」
「……その名を呼ぶことを許した覚えはない。宰相の娘と言えど二度目はないと思え」
今まで聞いたこともない冷たい声だった。驚いたリーゼロッテは、思わずその顔を見上げる。表情なくイザベラを見つめる瞳は、声音以上に冷たいものだった。
「あ……わたくし、不敬を……」
震える声のイザベラは、青ざめてぼろぼろと涙をこぼした。そんなイザベラを無視して、ジークヴァルトはリーゼロッテを連れて歩き出していた。
何度も振り返り、イザベラの様子を確かめる。だが、ジークヴァルトはお構いなしに、どんどん先へと進んでいってしまう。
「あのようにきつい言い方をなさらなくても……」
気丈なイザベラがあんなにも委縮するほどだ。もしもあの言葉が、自分に向けられたものだったとしたら、リーゼロッテはもうジークヴァルトに、笑顔を向けられないかもしれない。
「いい。あの手合いははっきり言わないと、いつまでもしつこく付きまとう」
ジークヴァルトは公爵だ。その立場から、利用しようと近づいてくる人間も多いのだろう。そうは思っても、先ほどのイザベラの泣き顔がこの目に焼き付いた。
「……女はすぐに泣くから面倒くさい」
密やかなため息と共に漏れ出た言葉を、リーゼロッテの耳は聞き逃さなかった。無意識のような呟きは、無意識だからこそ、ジークヴァルトの本音なのだろう。普段から泣き過ぎている自覚のあるリーゼロッテは、絶句してその口を引き結んだ。
「お前は別だ」
リーゼロッテの様子に気づいたのか、ジークヴァルトはそっけなく言った。おざなりに付け加えられた言葉は、リーゼロッテの心に届くことはなかった。
それ以上会話をすることもなく、宵闇の中、ふたりは馬車に揺られて公爵家へと帰っていった。