寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「旦那様、少々お(たず)ねいたしますが、リーゼロッテ様とはうまくやられているんですよね?」
「ああ」

 即答したジークヴァルトを前に、マテアスはこめかみにピキっと青筋を立てた。

「でしたら、なぜリーゼロッテ様は、あのように他人行儀にされているのでしょう?」

 最近、ふたりの仲はいい感じに近づいてきたというのに、ここにきて再び雲行きが怪しくなっている。以前のようにリーゼロッテがジークヴァルトを()けることはなくなった。だが、その態度はまるで、親しくない知人の茶会に招かれたような、そんな不自然なよそよそしさだ。
 ジークヴァルトの自室でふたりの時間を幾度か作っているが、回を重ねるごとに、リーゼロッテの様子がおかしくなっていく。

「旦那様のお部屋で、おふたりはどのように過ごされているのですか?」
「いつもと変わらない」
「いつもと、変わらない?」

 再びマテアスのこめかみに青筋が立った。

「まさかとは思いますが、そのいつもと、というのは、普段、執務室で過ごされている様子と何ら変わりがない、ということでしょうか?」
「ああ、そうだ」

 確かめるように問うたマテアスに、ジークヴァルトはそっけなく返した。

「異形の邪魔が入らぬようセッティングしているというのに、まったくあなたという人は……せっかくなんですから、口づけくらいなさったらいかがですか?」

 呆れたように言ったマテアスに向けて、ジークヴァルトは眉間にしわを寄せた。

「そんなことできるわけがない」
「なぜですか? せっかくの機会ですのに」
「駄目だ。そんなことをしたら」
「そんなことをしたら?」
「……彼女が泣く」

 ぎゅっと眉根を寄せたジークヴァルトに、マテアスが大げさにため息をついた。
 ジークヴァルトがリーゼロッテと初めて会った日に、盛大に泣かれてしまったことはマテアスも知っている。それこそ、名をちょっと呼んだだけでも大泣きされて、幼かったジークヴァルトの中でトラウマになっているのかもしれない。

 恐らくその時が主の初恋だったのだろう。本人の自覚はなくとも、それ以来会うことのできなかったリーゼロッテに、ジークヴァルトは並々ならぬ執着を見せていた。

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