寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 頷くとカークはリーゼロッテの後をついて来る。ガゼボに入ると、カークは入り口手前に立ち、リーゼロッテを守るように背を向けた。小鬼たちもガゼボの周りに集まってくる。

 濡れそぼる新緑が、庭の中ぼんやりと浮き上がる。ベンチに座って、その様をリーゼロッテはただじっと見つめていた。

(ジークヴァルト様がわたしの名前を呼ばないのも、『彼女』の存在が大きいからなんだわ)

 同じ託宣を受けた相手として、誠実に自分を扱ってくれている。それでも、心のわだかまりは消せないのかもしれない。

『その名を呼ぶことを許した覚えはない』

 ふとその言葉が(よみがえ)った。イザベラへと向けられたあの台詞(セリフ)は、ジークヴァルトの本音なのだろうと今なら思う。

(思えばわたしも勝手に名前を呼んでしまっていたわ……)

 再会したあの日から、当たり前のようにその名を呼んでいた。限られた近しい者は、親しみを込めて彼の事をヴァルトと呼ぶ。自分はきっと、そこに踏み入れていい立場ではなかったのだろう。

(強くは言えなかったんだ。わたしは龍が決めた相手だから)

 口下手で、不器用で、時に強引で。突拍子なく思える行動も、だがすべてはジークヴァルトのやさしさだった。例えそれが義務感からくるものだとしても、リーゼロッテを気遣う心がいつでもそこにあったはずだ。
 子供扱いされているのをいいことに、甘えすぎていた自分を悔やむ。握る守り石のあたたかさが、今はひたすら切なく感じた。

(ジークヴァルト様も、オクタヴィアのように――)
 託宣が果たされた後、思う人と結ばれたいと願っているのかもしれない。違えることのできない託宣を前に、自分がしてやれることはただひとつだ。

 ジークヴァルトとの決別が、ジークヴァルトのしあわせな未来に(つな)がる。それを思うと、胸が痛いくらいに締めつけられた。無事に託宣を終えたその時に、自分は快くこの(きずな)を手放せるのだろうか。
 ジークヴァルトのことだ。離れては嫌だと駄々をこねれば、きっとずっと一緒にいてくれるだろう。だが、心を押し殺すジークヴァルトを見て見ぬふりをして、自分はそれで満足なのか?

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