寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 部屋に戻るとリーゼロッテは、無表情のまま居間のソファへと音もなく腰かけた。とその瞬間、緑の瞳から大粒の涙が(こぼ)れ出る。

「リーゼロッテお嬢様!」
 慌てたエラはすぐさまその手を取った。目の前で膝をつき、下から覗き込むように顔を見る。

「お嬢様……やはり公爵様と何かあったのですね?」

 その言葉に、リーゼロッテはぎゅっと唇をかみしめた。はっとして、握ったエラの手に力が入る。

「もしや公爵様は、お嬢様のお名前を呼んでくださらなかったのですか?」
「違う……違うの、エラ」

 強く否定するようにリーゼロッテは首を振った。なんとか言葉にしようと、懸命に幾度もしゃくりあげる。エラはリーゼロッテの隣に座って、その小さな背中をやさしくさすった。

「名前を呼んでいただけるよう、お願いはできなかったの。あの日、ジークヴァルト様のお部屋にはいかなかったから」
「ではなぜ……?」

 (はや)る気持ちを押さえて、エラは辛抱強く言葉を待った。

「あの日わたくし、お部屋の前で……マテアスとの会話を聞いてしまったの」
「マテアスとの会話を?」

 頷くリーゼロッテの瞳から、とめどなく涙が溢れ出る。小さく唇をふるわせている姿は、見ていていたたまれなくなった。

「ジークヴァルト様に、今も思う、初恋の方がいらっしゃるって。それでわたくし、どうしたらいいのかわからなくなってしまって……」
「まさか、あの公爵様が」

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