寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 リーゼロッテ以外の女に熱を上げているなど信じがたい。驚いたエラはリーゼロッテの顔を覗き込んだ。エラの目から見ても、公爵がリーゼロッテの(とりこ)になっているのは明らかだった。

「それは、お嬢様の聞き間違いなのでは……?」
「いいえ、ジークヴァルト様も『彼女』を傷つけたくないと……。わかってはいたの。わたくしとジークヴァルト様は龍に決められた間柄。だから、仕方ないって、わたくしそう思って……託宣が果たされたらジークヴァルト様を自由にしてあげようって、それまでは今まで通りふつうに接しようって、そう決めたのに……!」

 リーゼロッテは歯を食いしばって天井を仰いだ。(こら)えていたものが、(せき)を切ったかのようにあふれ出す。

「わたくし、こんなに嫌な人間だった? ジークヴァルト様に頼りきりにならないようにって、これからはちゃんとしなきゃってそう思っているのに、あんな、あんなひどい態度をジークヴァルト様に――っ」

「お嬢様……」
「お願い。このことは誰にも言わないで。ジークヴァルト様はわたくしを誠実に扱ってくださってるわ。だから、エッカルトにもマテアスにも、お義父様たちにも誰にも言わないで……」

 泣きじゃくりながら懇願してくるリーゼロッテに、エラは安心させるように頷いた。

「このエラ、誰にも話さないと命にかけて誓います」
「……ありがとう、エラ」

 抱きしめてやさしく髪を()く。エラがダーミッシュ家に奉公に上がったのは、リーゼロッテが十歳の時だった。あんなに小さく幼かったリーゼロッテが、今、ひとりの男性を思って心を痛めている。
 これからもこの方のおそばでお支えしたい。そんな思いが溢れてくる。

 リーゼロッテが腕の中泣きつかれるまで、エラは愛おしそうにその髪をなで続けた。

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