寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 突然手を掴まれ制される。気づけば一心不乱に力を注ぎ込んでいた。体がふらつきソファの背に腕を伸ばす。触れる前に向こう側からすくい上げられ、抵抗する間もなく膝の上に乗せられてしまった。

「あまり無理はするな」
「申し訳ございません、わたくし……」
「いい、随分楽になった」

 そう言いながらジークヴァルトは、リーゼロッテの顔にかかる横髪を耳にかけてきた。耳朶(じだ)をなぞられ、一瞬で頬が朱に染まる。突っぱねるように距離をとろうとするも、背中を取られて逆に引き寄せられてしまった。

 耳障(みみざわ)りなほど心臓が打つ。その早鐘(はやがね)()が伝わってしまいそうで、リーゼロッテは胸を(かば)うように身を縮こまらせた。

「つらいのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」

 こんなふうに触れられて、今までどうして平気でいられたのだろうか。自分で自分が信じられない。動揺したように目を泳がせると、ジークヴァルトの眉間のしわが深くなった。

「部屋まで送る」
「いえ、(じき)にエラが迎えに参ります。それまでに菓子をいただきますから、すぐに落ち着きますわ」

 無理やりに膝から降りる。仏頂面のまま菓子に手を伸ばそうとしたジークヴァルトに、リーゼロッテは慌てて首を振った。

「自分で! きちんと自分で食べますから、ジークヴァルト様は気にせずお仕事をなさってくださいませ」

 淑女らしからぬ素早い動作で菓子を口に放り込む。何かを言いたげにしつつも、ジークヴァルトは執務机に戻っていった。ほっと息をつき黙々と菓子を頬張った。
 そんなリーゼロッテにマテアスが紅茶をサーブしてくる。やはりもの言いたげなその様子に、リーゼロッテは気づかないふりをした。

< 305 / 403 >

この作品をシェア

pagetop