寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 定期で開かれる刺繍(ししゅう)教室を終えて、エラは公爵の執務室へと向かっていた。リーゼロッテがまたつらい思いをしているのだと思うと、その足取りも(おの)ずと速くなる。

 マテアスには今は待ってほしいと言うに(とど)めた。このままではリーゼロッテをさらに追い詰めかねない。それがうまく伝わったのか、公爵の自室にリーゼロッテが呼ばれることもなくなった。
 あれ以来リーゼロッテは淡々と日々を過ごしている。心からの笑顔を見せることもなく、エラの胸は痛む一方だ。

「エラ様!」

 廊下の途中でふいに若い男に呼び止められる。振り向くと、幾度か話をしたことがある厨房で働く使用人だった。

「何か?」

 小首をかしげると、男はしばらくもじもじとした後、後ろ手に隠していた一輪の花を差し出してきた。

「あ、あのっ、エラ様は貴族(きぞく)(せき)を抜けると聞きました! もしよかったら、結婚を前提にオレとお付き合いしてくださいっ」

 がばりと頭を下げて、男は手に持った花をさらにずいと差し出してくる。突然のことに言葉を失っていると、数人の男たちがものすごい勢いで駆けよってきた。

「「「ちょおっと待ったぁぁぁあっ!」」」

 エラの目の前に男たちがずらりと並ぶ。

「オレもエラ様に求婚します!」
「ぼ、ボクにもチャンスをくださいっ」
「エラ様への愛なら誰にも負けません!!」

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