寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 振り返ったマテアスを、瞳を揺らしたエラが見上げてくる。

「あの……今日のことは、公爵様には言わないでいてくれませんか?」

 不安げな表情は、いまだエーミールの立場を思ってのことだろう。

「……わかりました。今回の件はこのマテアスの胸にしまっておきましょう。ですが二度目はございませんよ。もし同じようなことが起きたなら、必ずわたしにご相談くださると約束していただけますか?」

 それが条件ですとつけ加えると、エラは黙って頷いた。

「では、わたしはこれで」
 丁寧に腰を折ってから、マテアスは扉のノブに手をかけた。

「ああ、わたしとしたことが。もうひとつ大切な条件を言うのを忘れておりました」

 振り返ったマテアスの真剣な面持(おもも)ちに、エラが居住まいを正す。

「そちらの焼き菓子は、(ロミルダ)が来る前にお食べになっていただけますか? 隠していたことがバレると、後で何を言われるかわからないので」

 神妙な顔つきで言ったマテアスを、エラはぽかんと見上げた。

「ふ……ふふ、分かりました。ロミルダに見つからないよう、証拠隠滅しておきます」
「ご協力ありがとうございます」

 今度こそ扉を開けたマテアスに「たくさんありがとう」と小さく言葉がかけられる。

「お安い御用です。エラ様の笑顔のためでしたら、このマテアス、努力は惜しみませんよ」
 そう言い残して、マテアスは出ていった。

 ひとり残された部屋で、エラはゆっくりとケーキを口に運んだ。ブランデーの香りが、口いっぱいに広がっていく。

 もう、(さい)は投げられたのだ。自分の行くべき道が、今後変わることはない。

 ――この味を生涯忘れることはないのだろう
 エラは最後のひと口を、涙とともに飲み込んだ。





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