寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「確かにグレーデン家は格式高いお家でございましょう。ですがウルリーケ様のご容態も思わしくない今、エラ様との婚姻を力づくでどうこうしてくるとは思えません」
「ですが……」
「エーミール様はフーゲンベルク家の護衛として、長年勤めあげておられます。それにリーゼロッテ様がエラ様のしあわせを望めば、我が(あるじ)もおふたりのことを最大限後押(あとお)ししてくださることでしょう」

 その言葉にエラは、ハンカチを握る手に力を入れた。

「それでも、貴族である以上何がおこるかわかりません。グレーデン家の跡取りであるエルヴィン様はご病弱だと伺っております。万が一、エーミール様が侯爵家を継ぐようなことになれば……」

 そこまで言って、エラは一度言葉を切った。マテアスは口をはさむこともなく、ただ静かに続きを待っている。

「わたしはこういった貴族のしがらみから抜け出したいのです。誰よりも、大事なお嬢様をお守りするために――」

「……エラ様のお気持ちはよくわかりました。このマテアス、もう何も申しません」
「ごめんなさい……」
「謝ることなど何もございませんよ。どうか、エラ様の思うままに」

 やわらかく微笑むとマテアスは立ち上がった。

「ロミルダを呼んでまいります。そのお姿のまま戻られては、リーゼロッテ様もご心配されるでしょう。エラ様は落ち着くまでここにいらしてください」

 そう言って部屋を出ていこうとするマテアスを、エラは咄嗟のように引き止めた。

「マテアス! ひとつだけお願いが……」
「何でございましょう?」

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