寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 手続きは拍子抜けするほどスムーズに行われた。表向きはイグナーツの進言でブルーメ家が養子縁組を願い出て、それを王が了承したという形だ。

「イグナーツ様が山に入る前でよかったです。この冬の積雪が例年以上で助かりました」
「……彼はリーゼロッテ嬢の父親とは思えない人物だったな」
「そうですか? 泣き上戸なところなんかそっくりですけど」

 カイの言葉にハインリヒが意外そうな顔をする。一度だけ呼びつけたイグナーツは、淡々と話す静かな印象の男だった。

「にしても、イグナーツ様がああもあっさりと了承するとはオレも思ってみませんでしたよ」
「それは同感だな」

 ハインリヒはイグナーツに半ば命令する形を取った。イグナーツは母親のアニータの願いで、ルチアを隠す手助けをした経緯がある。にもかかわらず、彼は養子縁組をふたつ返事で了承した。

「まあ、早くマルグリット様を探しに行きたくて、面倒ごとが嫌だったのかもしれませんけど」
「彼はマルグリット・ラウエンシュタインが、本当にまだ生きていると信じているのか?」
「なんでも気配を感じるんだそうです。いまだ貴族名鑑には、ラウエンシュタイン公爵としてマルグリット様の名前が載ってますし……()()()()になったとしても、貴族籍を残すのが国の慣習なんですかね?」

 カイの言葉にハインリヒは大きくため息をつく。

「悪いがそこら辺のところは何も教えられていない」
「すべては龍の思し召し、ですね」

 肩をすくめるカイにハインリヒはただ頷くしかなかった。王太子の身でありながら、知らされていないことがこの国には多くありすぎる。

「あと、夜会の件は勝手に決めてすみませんでした。ピッパ様が社交界に出る前に、ルチアの存在を当たり前にしておきたかったので」

 口を開きかけて、ハインリヒはそのままカイの顔をじっと見やった。

「ん? オレの顔に何かついてますか?」
「いや……ひとりの人間にお前がこんなにも執心するとはな」
「まあ、乗りかかった舟ですよ。王にもルチアを見届けるよう言われましたし」
「そうか」
「……今回は無理を聞いてくださって、ハインリヒ様には感謝しています」

 神妙に言ったカイを前に、思わず驚き顔になった。王に言われたにしても、損得勘定抜きで他人に労力を傾けるカイを、ハインリヒは今まで見たことがない。

「何なんですか、さっきから。オレだって礼くらい言いますよ」
「ああ、そうだな」

 本人に自覚がないのも珍しい。そう思ってハインリヒはひそやかに笑みを作った。

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