寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「このお部屋は、ジークヴァルト様のお力に溢れているのですね」

 腕に抱くリーゼロッテが不思議そうにあたりを見回している。はっと意識を戻したジークヴァルトは、自分を戒めるように眉間のしわをさらに深めた。

「壁に守り石が埋め込まれているからな」

 効率よく守りを厚くするために、この部屋のいたるところに守り石が施されている。子供の頃から注ぎ続けられた力がそこに蓄えられて、異形の者に対する鉄壁の防御となっていた。

 彼女にどんな欲望を抱こうとも、この部屋の中では異形が騒ぎ立てることはない。何の疑いもなく身を任せてくるリーゼロッテの無防備さに、理不尽に苛立つ自分がいた。

 足早に寝室を抜けて居間へと足を踏み入れる。ふたり掛けのソファにテーブル、壁際に棚があるだけの簡素な部屋だ。そこまで来るとジークヴァルトはリーゼロッテを下へと降ろした。

「……ヴァルト様、あれは何ですの?」

 ぽかんと口を開けたまま、リーゼロッテが棚の上の壁を見上げている。ジークヴァルトはそこをちらりと見やってから、リーゼロッテへと視線を戻した。

「あれはお前の肖像画だ」

 そこには一枚の絵が飾られている。光り輝くような笑顔を向けている幼い彼女の姿絵だ。

「それは見ればわかるのですが……なぜあそこに飾ってあるのですか?」
「なぜ? エッカルトが持ってきて以来、ずっとそこにある」
「ずっと?」
「ああ、オレが五歳の時からだ」
「ごっ」

 言葉に詰まった様子で、リーゼロッテは再びぽかんと絵を見上げた。開かれた唇の間から、並びの良い白い歯と小さな舌が垣間見える。
 ちりとした欲望に、ぐっと奥歯を噛み締めた。ここを早く出ないと、自分が何をしでかすかわからない。ジークヴァルトが壁の端にある取っ手のない扉に向けて力を注ぐと、その扉はひとりでに開いていった。

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