寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、リーゼロッテは青の瞳をまっすぐに睨みつけた。

「口づけたところで形ばかりの婚約者に変わりないではありませんか!」

 一度口にしたらもう止めることができなくなった。とめどなく流れる涙と同じで、次々と言葉が(あふ)れ出す。

「守るのが義務だとおっしゃるのなら、そんなものもう必要ございませんわ! ご心配なさらなくても、これからも婚約者としての義務はきちんと果たします。夜会にも出ますし、人前では仲睦まじげにふるまいますわ。託宣が果たされたら、ちゃんとわたくしからジークヴァルト様を自由にしてさしあげます! ですからもうこれ以上、ご自分を(だま)すような真似(まね)はなさらないでくださいませ……!」

 最後の方はもはや懇願(こんがん)だった。ジークヴァルトと(つな)がるこの糸は、ぐちゃぐちゃにこんがらがって、もう(ほど)くことすらかなわない。

「それに、ジークヴァルト様はお慕いする方がいらっしゃるくせに、それなのに、わたくしにあんな……あんなこと……」
「……一体なんのことだ?」

 ずっと黙っていたジークヴァルトが口を(はさ)んできた。ぐっと眉根を寄せたままリーゼロッテを見つめ返してくる。

「とぼけないでくださいませ。わたくしマテアスとの会話を聞きました。ジークヴァルト様には今も思う初恋の方がいらっしゃるって……!」
 隠さなくったっていい。もうわかっているから、これ以上(いつわ)るのはやめてほしい。

 一瞬だけ驚き顔になったジークヴァルトは、ゆっくりとリーゼロッテをひとり掛けのソファへと降ろした。そのまま閉じ込めるように(おお)いかぶさってくる。
 (ほだ)されなどするものか。頬に伸ばされた手をリーゼロッテは咄嗟に払いのけた。

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