寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 イグナーツに顔を覗き込まれて、ジークヴァルトは小さく頷いた。つり気味の金色の瞳がおもしろそうに細められる。

「リーゼロッテの肖像画は見てくれた?」
「はい」
「どう思ったかな?」
「……色が、ついていました」
「おいおい、ヴァルト。もっとほかに言いようがあるだろう?」

 ジークフリートに呆れたように言われ、ジークヴァルトはぎゅっと眉根を寄せた。

「申し訳ない。息子は少々口下手(くちべた)なもので」
「構いませんよ。ジークヴァルト、君は緊張しているのかな? これから初めて託宣の相手に会うんだ。無理もないね」
「はっはっは、言われてみればそれもそうだな」

 眉間にしわを寄せたままの息子の頭を、ジークフリートはぐりぐりとなでた。ジークヴァルトはなすがままにされている。

「ボクなど、初めて妻の姿を目にしたときは、雷に打たれたように感じましたよ」
「なるほど。オレはリンデと物心ついたころからずっと一緒だったからなぁ」
「それはなんともうらやましい。ボクが彼女に出会ったのは十二の時でしたから。婚姻前までは年に一度か会えませんでしたし」
「なんと! それはさぞやつらかったかと。リンデの顔が一年も見られないなんて……そんな苦行、オレには耐えられそうにない」
「ははは、ボクも今だから笑える話ですがね」

 そんな話をしながら、イグナーツに促されて歩き出す。しばらく庭を進むとその先に、下へと降りる幅広(はばひろ)の石造りの階段が目に入った。

「ロッテ。お待ちかねのひとを連れてきたよ」

 階段下にいる誰かに向けて、イグナーツが声をかけた。先に降りて行ったふたりの背を追って、ジークヴァルトも階段へと向かう。だがその歩みはそこで止まってしまった。

 階段の(へり)に立ち、ただ目を奪われる。

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