寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
見下ろす庭に、摘んだ花を両手いっぱいに抱えた少女がいた。その周りだけが切り取ったように、なぜだか眩しく光って見えた。風が攫った蜂蜜色の長い髪が、緩やかに舞い上げられていく。
同じような小さな異形が瞳を潤ませながら、風に膨らんだスカートにまとわりついている。少女は大きな瞳を見開いて、じっとこちらを見上げていた。
勝手に足が前に出て階段を降り、ジークヴァルトは気づくと少女の目の前まで歩み寄っていた。あの絵と同じ緑の瞳が、自分を見つめ返してくる。だがその顔に笑顔はなく、驚いたように固まったままだった。
微動だにしない少女が幻でないことを確かめたくて、ジークヴァルトは無意識にその手を伸ばした。艶やかな髪に指を差し入れて、小さな顔を自身へと引き寄せる。浮かされるような熱に導かれるまま、当たり前のようにジークヴァルトは少女と唇を重ねた。
(やわらかい)
あたたかなその感触に、夢中になってさらに深く口づける。両親がいつもしているように、見よう見まねで舌を差し入れた。
その瞬間、少女の喉がひゅっと鳴った。両肩を掴むように強く押され、抱えていた花束が足元に散らばった。見開かれた緑の瞳に、透明な液体がせり上がってくる。かと思うと、火がついたように少女は突然泣き出した。
目の前でぼろぼろとこぼされる涙を、ジークヴァルトは食い入るようにただ見つめていた。その一瞬一瞬を焼きつけるように、瞬きはおろか、息をすることすらも忘れて。
「おい、ヴァルト! 託宣の相手にやっと会えたからって、挨拶もなしにそれはないだろう!? すまない、イグナーツ殿」
ジークフリートが引き離すように、慌てて少女を抱え上げた。わんわんと泣きながら、少女が父の首にしがみつく。その様子にちりとした痛みが、ジークヴァルトの奥に小さく生まれ落ちた。
「いや、ジークヴァルト分かんぞ、その気持ち! オレもマルグリットに初めて会った時、お前とまったくおんなじことしたわっ」
げらげらと笑いながら、今度はイグナーツがジークヴァルトの頭をぐりぐりとなで回してきた。乱暴すぎるその動きに、ジークヴァルトの首も同時にぐるぐる回る。
「やべー、可笑しすぎて素が出ちまった」
目じりに涙を浮かべ、イグナーツはいつまでも腹を抱えて身をよじらせている。
泣き続ける少女をあやすように、ジークフリートは庭の中を歩き回った。それでも少女はなかなか泣き止まない。
「あああ、泣かないでくれリーゼロッテ。そんなに泣いたらおめめがとけちゃうんだぞ? 本当にヴァルトは悪い奴だな。だが、これをやるからなんとか仲直りしてくれないか?」
「なかなおり?」
ぐずぐずと泣き続けながら、少女は小さく鼻をすすった。初めて聞く声は、響くようにジークヴァルトの耳に届けられた。
同じような小さな異形が瞳を潤ませながら、風に膨らんだスカートにまとわりついている。少女は大きな瞳を見開いて、じっとこちらを見上げていた。
勝手に足が前に出て階段を降り、ジークヴァルトは気づくと少女の目の前まで歩み寄っていた。あの絵と同じ緑の瞳が、自分を見つめ返してくる。だがその顔に笑顔はなく、驚いたように固まったままだった。
微動だにしない少女が幻でないことを確かめたくて、ジークヴァルトは無意識にその手を伸ばした。艶やかな髪に指を差し入れて、小さな顔を自身へと引き寄せる。浮かされるような熱に導かれるまま、当たり前のようにジークヴァルトは少女と唇を重ねた。
(やわらかい)
あたたかなその感触に、夢中になってさらに深く口づける。両親がいつもしているように、見よう見まねで舌を差し入れた。
その瞬間、少女の喉がひゅっと鳴った。両肩を掴むように強く押され、抱えていた花束が足元に散らばった。見開かれた緑の瞳に、透明な液体がせり上がってくる。かと思うと、火がついたように少女は突然泣き出した。
目の前でぼろぼろとこぼされる涙を、ジークヴァルトは食い入るようにただ見つめていた。その一瞬一瞬を焼きつけるように、瞬きはおろか、息をすることすらも忘れて。
「おい、ヴァルト! 託宣の相手にやっと会えたからって、挨拶もなしにそれはないだろう!? すまない、イグナーツ殿」
ジークフリートが引き離すように、慌てて少女を抱え上げた。わんわんと泣きながら、少女が父の首にしがみつく。その様子にちりとした痛みが、ジークヴァルトの奥に小さく生まれ落ちた。
「いや、ジークヴァルト分かんぞ、その気持ち! オレもマルグリットに初めて会った時、お前とまったくおんなじことしたわっ」
げらげらと笑いながら、今度はイグナーツがジークヴァルトの頭をぐりぐりとなで回してきた。乱暴すぎるその動きに、ジークヴァルトの首も同時にぐるぐる回る。
「やべー、可笑しすぎて素が出ちまった」
目じりに涙を浮かべ、イグナーツはいつまでも腹を抱えて身をよじらせている。
泣き続ける少女をあやすように、ジークフリートは庭の中を歩き回った。それでも少女はなかなか泣き止まない。
「あああ、泣かないでくれリーゼロッテ。そんなに泣いたらおめめがとけちゃうんだぞ? 本当にヴァルトは悪い奴だな。だが、これをやるからなんとか仲直りしてくれないか?」
「なかなおり?」
ぐずぐずと泣き続けながら、少女は小さく鼻をすすった。初めて聞く声は、響くようにジークヴァルトの耳に届けられた。