寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ああ、リーゼロッテに贈り物だ。ほぅら、綺麗だろう?」

 青い守り石がついたペンダントを、目の前に差し出した。それを受け取った少女が、不思議そうにチェーンを揺らす。

「……きれい」

 涙がたまったままの目を見開いて、少女は日の光にかざすように守り石を揺らした。何度もそうしているうちに、その顔が(ゆる)く笑顔を作る。

「そうかそうか、気に入ってくれたか」

 ほっとしたようにジークフリートは少女をすぐ近くに降ろした。一歩近づくと、守り石に夢中になっていた少女は、ジークヴァルトに気づいて再び顔を強張(こわば)らせた。

「リーゼロッテ」

 手を伸ばしながら、初めてその名を呼んだ。と同時に少女の体がびくりと大きく震える。

「リーゼロッ……」
 びくっ

「リーゼ……」
 びくびくっ

「リー……」
 びくびくびくっ

 見ていて可哀そうなくらい(おび)える様子に、ジークヴァルトもさすがにその口をつぐんだ。伸ばしかけた手をそのままに、対峙するように見つめ合う。

「ヴァルト……お前、すっかり嫌われたなぁ」

 困ったように言うジークフリートの前で、ぐっと口を引き結んだ。考えあぐねた挙句(あげく)、ようやく見つけた言葉で呼びかける。

「……ラウエンシュタイン嬢」

 ぽつりと言うと、少女はきょとんとした顔をした。

「呼ばれ慣れてないから、ロッテは分かってなさそうだな」
「はぁぁ、名前も呼ばせてもらえないんじゃあ、お前リーゼロッテに相当嫌われたぞ?」
「はははっ、それも力いっぱい覚えがあんぞ! 大丈夫だ、ジークヴァルト。それでもオレはちゃんとマルグリットの愛を勝ち取った!」

 もう取り(つくろ)う気がなくなったのか、イグナーツは声をたてて大きく笑った。

「まぁ、オレもしつこくしすぎて、リンデによく怒られてるからなぁ」
「フリート殿も! いやぁ、オレたち実に気が合いそうだ」
「まったくだ!」

 はっはっはと笑うと、ジークフリートはイグナーツと仲良く肩を組んだ。愉快そうにふたりで笑い合いながら、ジークヴァルトの頭を同時にぐちゃぐちゃになでてくる。

「いやぁ、ヴァルトの初恋がこんな苦い思い出になるとはなぁ」
「ははは、何とも世知(せち)(がら)い!」

 そんな男どもに興味がなくなったのか、リーゼロッテはくるっとこちらに背を向けた。守り石を光にかざしながら、スカートの(すそ)を跳ねさせご機嫌な様子でスキップをしていく。
 きゅるるん小鬼を引き連れて、茂みの奥へとそのままリーゼロッテの小さな姿は消えてしまった。

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