寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「……マテアスのことも別に嫌いではないぞ」
「わたしを初恋の相手にするのは勘弁してください! 恋とは異性にするものです。ああっと、家族も駄目ですよ。ディートリンデ奥様やアデライーデ様も除外してお考えください」
とんでもないことを言い出す主に慌てて首を振る。マテアスにも初恋らしきものの経験はあったが、その淡い思いは一瞬で潰えてしまった。学業、武術と学ぶことの多いマテアスにとって、ジークヴァルトに色恋の知識を的確に説明するのは荷が重いことだった。
「そうか……」
だがジークヴァルトはそれで納得したように、再び飾られた肖像画を見上げた。そのまま微動だにもしなくなる。
マテアスは気がつかなかった。この段階で、「初恋の相手」=「家族以外のはじめて嫌いではないと思った女性」という変換が、ジークヴァルトの中でなされていたことに。
このことが原因で、あらぬ方向へ主が初恋をこじらせていくなどと、どうして予想し得ただろう。そのせいで後の自分が苦労するのは、自業自得と言うべきか。
こんな会話は忙しい日々に埋もれていって、ジークヴァルトの恋は、冬に眠る土中の種のごとく息をひそめることになる。
ひそやかに育まれ続けた初恋は、その後十一年の歳月を経て、春の息吹とともにようやく動き出すのであったーー
「わたしを初恋の相手にするのは勘弁してください! 恋とは異性にするものです。ああっと、家族も駄目ですよ。ディートリンデ奥様やアデライーデ様も除外してお考えください」
とんでもないことを言い出す主に慌てて首を振る。マテアスにも初恋らしきものの経験はあったが、その淡い思いは一瞬で潰えてしまった。学業、武術と学ぶことの多いマテアスにとって、ジークヴァルトに色恋の知識を的確に説明するのは荷が重いことだった。
「そうか……」
だがジークヴァルトはそれで納得したように、再び飾られた肖像画を見上げた。そのまま微動だにもしなくなる。
マテアスは気がつかなかった。この段階で、「初恋の相手」=「家族以外のはじめて嫌いではないと思った女性」という変換が、ジークヴァルトの中でなされていたことに。
このことが原因で、あらぬ方向へ主が初恋をこじらせていくなどと、どうして予想し得ただろう。そのせいで後の自分が苦労するのは、自業自得と言うべきか。
こんな会話は忙しい日々に埋もれていって、ジークヴァルトの恋は、冬に眠る土中の種のごとく息をひそめることになる。
ひそやかに育まれ続けた初恋は、その後十一年の歳月を経て、春の息吹とともにようやく動き出すのであったーー