寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
(慎重に、少しずつ少しずつ……)

 修行の一環として、リーゼロッテは守り石に力を注ぐ練習をしていた。箱に入っているのは、リーゼロッテ用に選別された守り石だ。

 練習用のそれほど質のいいものではないと言われたが、その実、粗悪なものでも守り石ひとつあれば、平民がひと月は楽に生活できる。それを知っていたら、恐らくこんなふうに気軽に扱うことはできなかっただろう。

 初めてこれを渡された時、リーゼロッテは見様見真似で石に力を注いでみた。だが、手のひらに意識を集中した瞬間、その守り石は見事に粉々になってしまった。
 手の内をさらさらと零れ落ちた石は、まるで緑の粉砂糖のようだった。

(どうしてヴァルト様みたいにうまくできないのかしら)

 むうと唇をへの字に曲げる。力加減を間違えると先ほどのように割れてしまうし、弱すぎるとまだら模様になったりもする。時には気泡が入ったかのように見え、それはそれで綺麗なのだが、やはり何かが違うと思ってしまう。

 ジークヴァルトの守り石は綺麗な青に輝いている。たゆとうように揺らめく青は、いつ見ても見飽きることはない。
 自分の纏う緑が石にこめられ、同じように揺らめく様を頭に描く。それができたらなんと素敵なことだろうか。リーゼロッテはひとり頷き、再び手のひらの石に心を傾けた。

(焦らない焦らない……)

 調子に乗るとまた割れてしまいかねない。呪文のように繰り返しながら、リーゼロッテは瞳を閉じて力の流れに意識を集中した。

 不意に髪に何かが触れた。はっとして顔を上げると、ジークヴァルトの大きな手が、自分の髪を梳いている。当のジークヴァルトは書類に目を落としたままだ。

(また無意識ね)

 ジークヴァルトは自覚のないまま、頻繁に髪に触れてくる。これはそばにいる犬や猫を、いつの間にか撫でているような感覚なのだ。リーゼロッテはそんなふうに理解していた。

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