寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「満足したか?」
「はい、とても」
「そうか」

 やさしい手つきで髪を()くと、ジークヴァルトは手を引いてリーゼロッテを居間へと移動させた。すかさず目の前に食後の紅茶と小さな焼き菓子が用意され、料理長たちはさっと下がっていった。並ぶソファで沈黙が降りる。

 おもむろに焼き菓子に手を伸ばすと、ジークヴァルトはあーんと再びそれを差し出してきた。ためらいなく口にして、お返しにジークヴァルトにも小さなクラッカーを差し出した。

「あーんですわ、ヴァルト様」

 ジークヴァルトの口にそれを押し込むと、しばらくもぐもぐ見つめ合った。先ほどあったことなど気のせいと思えるような、普段通りのやり取りだった。

「突然、わがままを申し上げたりして、わたくし……」
「いい。問題ない」

 静かに言って、ジークヴァルトはリーゼロッテの髪に手を伸ばしてくる。やさしく梳かれる手つきも普段のままだ。また気を遣われているのだと思うと、やるせない気持ちになってくる。

 それでも今日はジークヴァルトの誕生日だ。リーゼロッテはせめて心を尽くそうと、笑顔になって青い瞳を見上げた。

「ジークヴァルト様、お誕生日おめでとうございます」
 その言葉に、髪を梳く手が止められた。ジークヴァルトは面食らったような顔をして、「ああ、そうか」と小さく頷いた。

「……ご自分のお誕生日を忘れてらしたのですか?」
「オレが生まれた日というだけのことだろう」

 そっけなく言って、ジークヴァルトは再び髪を梳き始めた。

「ジークヴァルト様がお生まれになった大切な日ですわ。毎年、お祝いも何もなさらないと聞きました」
「何も……していないわけではない」

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