寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「じーふヴぁるとさま……」

 青い瞳に見つめられ、もごもごしながらさらに動悸(どうき)が激しくなる。不意打ちはやめてほしい。本当にやめてほしい。

「ふっ、仕方のない奴だな」

 隣に座ったジークヴァルトが髪をやさしく()いてくる。指がなぞるたびに、青の力がリーゼロッテへと入ってくるのが分かった。乱れた流れを導くように、ゆっくりと内を巡っていく。
 綺麗な青と自分の緑が、溶け込むように流れるのが分かった。早まる鼓動はそのままに、溢れそうになっていた力は、穏やかな対流を取りもどす。

「落ち着いたか?」
「はい……」

 髪を梳いていた手が、頬の上で動きを止めた。ジークヴァルトの大きな手は耳まで届いて、その指先が耳たぶを挟んでやわやわと(もてあそ)んでくる。
 くすぐったさと恥ずかしさで、身をすくませながら視線を逸らした。ジークヴァルトのおかげで力の制御は効いているが、口から心臓が飛び出しそうだ。

「リーゼロッテ」
 ふいに呼ばれて顔を上げる。

「そら、あーんだ」

 やさしくクッキーを口に差し入れられ、おとなしくそれを受け入れた。あれだけ恥ずかしいからやめてほしいと思っていたこの行為も、今ではただうれしく感じてしまう。
 デルプフェルト家の夜会以来、ジークヴァルトは名前で呼んでくれるようになった。そのことが何よりうれしくて仕方がない。

(だけど恥ずかしさは倍増だわ)

 エラをはじめ、周囲にいた使用人たちがじっとこちらを見やっている。みな一様に口元をむにむにさせて、何やら笑いを(こら)えているようだ。すぐ近くにいるジークハルトも、先ほどからずっとによによとした顔で浮いている。

『リーゼロッテ、なんだかうれしそうだね』
「ヴァルト様が名前で呼んでくださるようになったので……わたくしそれがうれしくて」

 あーんがうれしいとは恥ずかしくて言えなかったので、言い訳のようにそう答えた。

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