寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
『あれ? ヴァルトと初めて会った日のこと、リーゼロッテはやっぱり覚えていないんだ?』
「え? いいえ、わたくしちゃんと覚えておりますわ」
黒いモヤを纏うジークヴァルトが怖すぎて、とにかくギャン泣きしたことは鮮明に記憶に残っている。そんな自分に恋をしたというのだから、ジークヴァルトは物好きだとしか言いようがない。
『でもヴァルトがなんでずっと名前を呼べなかったのか、リーゼロッテはその理由を覚えてないんでしょ? そっか、よっぽどショックだったんだなぁ』
「名前を、呼べなかった理由……?」
意味が分からずこてんと首を傾けた。呼ばなかったならまだしも、呼べなかった訳とは一体何なのか。答えを求めるようにジークヴァルトの顔を見る。
「いや、覚えてないならそれでいい」
「え? ですが……」
「いい。思い出さなくていい」
「でも」
「覚えていないものを無理に思い出すことはない」
さらに反論しかけたリーゼロッテの口に、ジークヴァルトは素早くクッキーを差し入れた。唇を尖らせながらも、リーゼロッテはそれを素直に飲み込んでいく。
「もう、ヴァルト様。あーんは一日一回までですわ」
「あーんとは言ってない」
「え? いいえ、わたくしちゃんと覚えておりますわ」
黒いモヤを纏うジークヴァルトが怖すぎて、とにかくギャン泣きしたことは鮮明に記憶に残っている。そんな自分に恋をしたというのだから、ジークヴァルトは物好きだとしか言いようがない。
『でもヴァルトがなんでずっと名前を呼べなかったのか、リーゼロッテはその理由を覚えてないんでしょ? そっか、よっぽどショックだったんだなぁ』
「名前を、呼べなかった理由……?」
意味が分からずこてんと首を傾けた。呼ばなかったならまだしも、呼べなかった訳とは一体何なのか。答えを求めるようにジークヴァルトの顔を見る。
「いや、覚えてないならそれでいい」
「え? ですが……」
「いい。思い出さなくていい」
「でも」
「覚えていないものを無理に思い出すことはない」
さらに反論しかけたリーゼロッテの口に、ジークヴァルトは素早くクッキーを差し入れた。唇を尖らせながらも、リーゼロッテはそれを素直に飲み込んでいく。
「もう、ヴァルト様。あーんは一日一回までですわ」
「あーんとは言ってない」