寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
(よかった。迷惑がられてはいないみたい……)

 だが三枚目のハンカチを広げると、一瞬だけ目を見開いたジークヴァルトは、すぐさまぎゅっと眉根を寄せた。何かをこらえるようなその様に、リーゼロッテは途端に不安が込み上げてくる。

 あのハンカチには、ジークヴァルトが可愛がっていたという黒馬の姿を刺繍した。ジークヴァルトの子供の頃の肖像画に描かれていたものを、そのままそっくり模写したのだ。
 目の前のジークヴァルトの表情は、何かつらい記憶に触れたかのように見えた。悲しい別れだったのだ。その時リーゼロッテは、軽率な自分の行為に気がついた。

「ジークヴァルト様……」
「ああ、大事にする」

 そのタイミングで、マテアスが迎えにやってきた。ジークヴァルトは言葉の通り、大事そうにハンカチを懐にしまうと、リーゼロッテの髪をひとなでしてから部屋を出ていった。

「お嬢様?」
「エラ……わたくし、またやってしまったのね」

 リーゼロッテは絶望したように立ち尽くす。エラはその後ろ姿を、不安げに見守っていた。

< 42 / 403 >

この作品をシェア

pagetop