寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 その考えに至っていなかったリーゼロッテは、雷に打たれたかの(ごと)くの驚きの表情で、マテアスの顔を見やった。守り石(イコール)異形の者を寄せ付けないのではない。ジークヴァルトの力が込められた守り石だからこそ、魔よけのお守りとして機能するのだ。

「そ、そんな盲点が……」
「いえ、盲点と申しますか、リーゼロッテ様の守り石を他人に手渡すなどとてもとても……」

 何しろジークヴァルトはリーゼロッテの失敗作の守り石の数々を、いつどこでどうやって失敗したのかの記録も含めて、すべてコレクションしているのだ。それこそ粉々になった砂粒ひとつ残すことなくきっちりと回収している。幸い、マテアスのつぶやきはリーゼロッテには届かなかったようだ。

「だったら、わたくしの涙をさしあげようかしら。魔よけの香水と説明すれば使っていただけるかもしれないし」

 しかし、薄めた香水の効果はそれほど長いものではなかった。水に薄めてせいぜい二、三日といった所だ。

「リーゼロッテ様の涙を赤の他人に差し出すなどもってのほか!」
 マテアスが悲鳴のような声を上げた。

「そのようなことになったら、相手のご令嬢もただではすみませんよ」
「そんな……まるで劇薬の様に言わないで」

 悲しそうに瞳を伏せるリーゼロッテに、マテアスは内心そうじゃないと叫んでいた。(あるじ)がそんなことを許すはずはない。それだったら自分の守り石を渡すと言うに決まっている。

「ですが、旦那様の守り石をそのまま差し上げる訳には参りませんからねぇ」
「ヴァルト様にお願いしても駄目なのかしら……?」
「旦那様の力は強大ですからねぇ……知識を持つ(やから)が、悪用しようと思えばできてしまうような代物ですので」
「そうなのね……」

 再びしょんぼりするリーゼロッテを前に、マテアスはぽんと(こぶし)を手のひらに乗せた。

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